■第12話 目線
『今の。 今、横。 通ったやつ、
・・・・・・・・・なんて名前だったっけ・・・?』
翌日、朝の教室。
3列目の最前席に座るハヤトの目に、扉からひっそり控え目に教室内に進む
ショートカット姿。
2列目と3列目の机の間。ハヤトのすぐ横を通り、教室後方へ向かってゆく。
ハヤトは隣席のクラスメイトに、小声でそのショートカットの名前を訊いた。
『んぁ? コンノじゃね? コンノ・・・ミノリ?だか。 確か。』
(コンノ・・・ ミノリ・・・・・・・・。)
ハヤトは少しだけ振り返り、最後席のミノリに目を向けた。
机横のフックにカバンを引っ掛けようと、それに目を落としている。
そしてイスを引き、座ったと同時に顔を上げ、いつもの癖。体を少し傾げ
3列目の最前席ハヤトへ視線を向けたミノリ。
目が、 合った。
ふたり同時に、慌てて目を逸らす。
ハヤトは急いで前を向き、ミノリは分かり易く俯いた。
(やべ・・・ 目ぇ合った・・・。)
(うわっ・・・ なんか、コッチのほう見てた・・・?)
互いに、やたらソワソワと落ち着かない朝のはじまりだった。
その日の3時限目の体育。
男女別でバスケットボールが行われていた。
体育館を半分に区切り、右半分で男子バスケ。左半分は女子が使い試合を開始。
ミノリは自分の番が来るまでの間、体育館隅でこっそり男子バスケの試合を
眺めていた。
丁度ハヤトがボールを持ち、ドリブルチェンジして相手を交わしてゆく。
右から左、左から右へとドリブルする手を変え擦り抜けると3ポイントライン
より外側からシュートした。
それはスローモーションの様にキレイな弧を描き、バスケットゴールに
吸い込まれた。
(・・・カッコよすぎるでしょ・・・。)
その勇士に目を細めうっとり見惚れていた時、
『ミノリーィィイイっ!! 危ないっ!!』
叫び声と同時に、ボフッ!という音と、顔面への鈍い痛みが走った。
(やっぱ、ツイてない・・・。)
ミノリの鼻から血が吹き出し、体育館床に倒れた。