■第11話 名前
【mosso】:今日、雨降りましたね?
ハヤトは、少し目をすがめ真剣な眼差しでPC画面を見つめ文字を
入力していた。
【グローブ】:降りましたね。
その一言は、どこか元気がないように感じた。
いつもと変わらない感情ないただの明朝体なはずなのに。
どこか、なにか違う。
【mosso】:どうかした? 元気ないんじゃないですか?
すると、グローブが少し間をおいて、文字を打ちはじめた。
【グローブ】:今日、靴箱でゴトウ君の隣に立って。
クラスメイトなんだから『じゃあね』の一言でも
言えばいいのに
わたし、ほんとバカみたいに緊張しちゃって・・・
グローブが続ける。
【グローブ】:感じ悪かったかもー。
いや、きっとそれすら向こうは気にしてないかw
カノジョとふたり傘で仲良く帰ってて。
それ、ずーっと見てて。 私。
ストーカーかってくらい、ずーっと見てて。
もう、笑っちゃうくらい片想いだって痛感ww
(やっぱり・・・ あの、アレが。 グローブなんだ・・・)
【mosso】:次は、声かけてみたらいいんじゃないですか?
話し掛けてみたら、もしかしたら意外に話しやすいかも?
すると、やや暫く返信は無かった。
画面をじっと見つめていたハヤトの目に、やっと文字が現れた。
【グローブ】:わたしのことなんか、きっと、名前も知らないと思うww
ミノリはそう入力すると、悲しげに目を伏せた。
傘を差し学年イチ可愛い彼女と帰る、うしろ姿・・・
微かに振り返りコッチを見たような気もしたが、そんなの気のせいだと
かぶりを振った。
ただ、じっと背中を見つめていた。
きっと、この先も、振り返ることはないその背中を。
冷たい雨の音が、耳鳴りのように響いていた。