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見学スペースから鍛練場に降りると勇者が駆け寄ってきた。

『僕の勇姿見てくれた?』

「全然見なかった。それより弟へのお土産に悩んでたの」

首を振って答える。

『せっかく頑張ったのに』

勇者はがっくりと膝を着いた。



「ケガとかしてないよね?」

勇者を放置して、対戦相手に声をかけた。

『マリアンヌ。心配してくれるの?』

うるうると見上げても、がっしりとした体型は隠せないから可愛くない。立ち上がったら私より40cm以上高いのわかってるし。

「それで負けたと言わせないだけ」

冷たく言い放つ。コイツに甘い顔を見せるとつけあがるから嫌いだ。

『勇者程度にケガさせられねぇよ』

負けたくせに威勢だけいいな。「何分後から始められる?」

あくまで事務的に。これが基本。

『いつでもオッケー』

馬車から持ってきた2m弱の棒を手に鍛練場に入ると、赤毛は木剣を手にした。刃先を潰したとはいえ鉄だと間違って当たると危ないってわけか。


この勝負、実は勝算しかない。


私にケガをさせない為に防御と寸止めしかできない相手に負けるはずはないのさ。

ただ、長引かせると脳筋の体力に圧されるから一気に片をつける。


騎士団副団長と町娘の対決。騎士団のメンバーからしたら微笑ましい兄妹ケンカにしか見えないだろう。ましてや、町娘が自分の身長以上の長さの棒を振り回せるとは思っていないだろうし。

それでも構えた瞬間、静まり返るのはさすがだ。


開始の合図の長い笛の音が鳴り終わった時、そこを支配していたのは沈黙だった。

巨体の副団長が地面に倒れていた。

右手を踏みつけて、腹部には棒を押し付けている。

正直言うと、この男の力なら右手の上の私の足を払いのけることは可能だ。それをしたら体重を掛けている私が転ぶ危険性があるだけだ。


『……本日、二度目の…鳩尾狙いとは…』

「兄様、出会い頭のは自分から突っ込んで来てましたよ」

『…………兄様と呼ばれた♪』

キモい。思った瞬間、反射的に棒に体重掛けちゃったよ。

カエルを潰したような悲鳴が上がった気もするけど空耳だろう。


『……えー………勝者…マリアンヌ様?』

審判役の騎士が呆然としながらも宣言した。

とりあえずこれで副団長ともあろう者が勇者と町娘に負けたわけで…


『ルネ!貴様、フェイントに引っかかってどうする!』

ドスの利いた声で、叱咤が飛んだ。

見ると足元の男よりごっつい熊のような茶髪がいた。制服の飾りから言ってカスレ騎士団の団長だろう。

顔も怖い系で、この二人がトップの騎士団ってヤバくね。

ヤクザも真っ青な…………あ、この足元のアホを精神から鍛え直して下さい。よろしくね。


『お嬢さん、なかなかの腕前だね。今度手合わせしてみない?』

「遠慮します」

クマさんの誘いに即答で拒否した。馬鹿兄より体重があって動体視力もいい相手に通じるほど強くないよ。アホ兄倒すのに勢いつけて全体重かけたし。この体重差になると相手の勢いを使って後ろから蹴り倒すのが精一杯だけど、後ろ取らせてくれなさそう。

手の内見せる前ならイケたかもしんない。適わない相手には手を出さないのが吉。

勇者くらいの馬鹿チートがあれば力業でイケる。


『団長!いくら団長でも可愛い妹をナンパしようなんて認めませんよ!』

右手から足を退けたら、腹を押さえてた棒を丁寧に地面に移動させて立ち上がって叫んだ。


この異常に高い生命力がヤダ。踏みにじっても踏みにじっても私に構い倒そうとするしつこさも鬱陶しい。私が可愛いなら私に自由をくれ。影で暗躍するのを止めろ。

……………5年前にケリつけたな。おかげで静かになった。なったはずなのに、勇者どうにかなんないかなぁ。国王がついてて余計に面倒くさい。

いっそ二人とも国外に追い出すか、私が国外に逃げ………二人ともソッコー追って来るよな。で、勇者に追っ手が………はぁ。マジ勇者帰れ!で、二度と来るな!

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