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『…兄…?』
勇者が呆然としながらも私たちを見比べた。
燃えるような赤毛のがっしりとした背の高い男と、茶色よりはやや赤い程度の特徴もない髪、背も高くない私。どちらかと言えば華奢かな。余分な筋肉も贅肉もつけないようにしてるし。顔も似てるような似てないような程度。
明確な兄妹には見えない。
勇者の視線は従姉へと泳いだ。背の高い金髪の美人。
『……兄?』
『うん。マリアンヌの兄のルネ。マリアンヌ可愛さに暴走して、マリアンヌに追い出された』
従姉が紹介した。
『マリアンヌの許可が出るまで王都を去るか、5m以上近づいちゃダメな上に会う度に大嫌いって言われ続けるかどちらかを取れと……で、嫌われたら生きていけないって旅に出たのが5年前』
『……それって嫌われてるよね?』
『そこは指摘しないであげて』
勇者のツッコミに従姉は苦笑いを返した。
『そんなことはない!マリアンヌはこうして会いに来てくれるんだっ!』
往生際の悪い赤毛が叫んだ。
「国王命令で勇者の討伐に同行しただけ」
キッパリ。
『マリアンヌはツンデレなんだっ!』
いつデレた?
少なくとも記憶には無い。
『……マリちゃんの…デレ?』
勇者が首を捻った。
『弟妹にはデレるけど…他の人には辛辣。僕もまだデレられたことない………』
なぜお前にデレねばならぬ。
勇者は従姉の顔を見た。
『ルネにデレたのは……まだほんの赤ちゃんだった頃?大きくなってからはないわね。ウチの家系は弟妹に甘々なんだけど、たまに度の外れたのが……』
『確かにマリちゃんも甘々』
『兄姉が好かれるかどうかはその人次第』
従姉が声を上げて笑うけど、貴女も弟に好かれてないから。
『マリちゃんはブランちゃんに好かれてるけど…』
勇者はチラッと赤毛を見た。
『マリちゃんがお兄さんを好きかどうかは……』
『好きに決まってる!』
「嫌い」
『マリアンヌにつきまとうならたとえ勇者と言えども容赦しない!決闘だ!』
無視された。昔っからだが私の発言は無視された。コイツの耳には聞きたくないことから蓋をする機能が付いてるんじゃないかと思う。
ってか騎士団副団長がこの地方の魔物の討伐に来た勇者に決闘を挑んでどうする気だ。
「話を逸らすな。私が敬称をつけて呼ばれてることを是正する方が先だ」
『マリアンヌは俺の女神だ。女神が敬称付で呼ばれるのは問題ない』
相変わらず壊れてる。叩けば直るかな?
と言うわけで…
「勝負だ。私が勝ったら呼び方を変えさせろ」
持っていた棒を突きつけて宣言した。
『いや、勇者との決闘が先だっ!』
「勇者と決闘していいわけないだろ」
『仮にもお兄さんが交際を認めてくれるならいくらでも決闘します』
「そもそも私が認めてないわ」
『よし!勇者!決闘だ!仮じゃなくて実の兄の実力を思い知れ!』
ったく、どいつもこいつも私の話を聞け!
この馬鹿ども何とかならんか?くそっ!やっぱり旅に出るんじゃなかった。帰ったらもう二度と王都から離れないぞ。
 




