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カスレ遠い。
馬車の旅も何日目か…。三日目だよな。飽きた。
でも、今日はイベントがあるらしく騎士団とは別行動してる。実際には制服を脱いで何人か同行してるが。
盗賊団取締りイベントらしい。つまりは私たち乙女は囮で…いや、勇者も紛れ込んでるし、安全だけどな。魔王もあっさり倒したんだぜ。…まぁ人間相手にどこまでできるかは知らん。精神的なもんもあるからな。あ、ご褒美飯目当てで何でもできるかも。
私のやることはいつも通り、ただ馬車に乗ってるだけで。暇なんだよ。座ってるだけなんだもん。血栓症にならないように時々足を動かしたり、ストレッチしたり、休憩中は歩き回ったりするけど、暇なの。もう三日間ずっと暇。ウチにいる時には何だかんだ動き回ってるんだなって実感してるところ。
『…来た』
勇者が小声で知らせると間もなく、周囲が騒がしくなり馬車が速度を上げて揺れが大きくなった。適当なところ、つまり騎士団と合流できるとこまで逃げて一網打尽にするらしい。いや、根城にいるのをどうするつもりだろ。まぁ、いいか。庶民には関係ないし。
ってか、このまま揺られてたら酔いそう。早く降ろして運動させて。
あ、馬車が止まった。不透明な幌だからわかんないけど、多分まだ集合場所に着いてない。だって、前方から怒声が聞こえるんだ。こりゃ道を塞がれたね。
魔術師が乗り移ってくると入れ替わりに勇者が出て行った。魔術師が何やら呪文を唱えた。
『盗賊団は入って来れませんので、安心して下さい』
『予想より早く止められたわね』
『前後を塞がれました。ちょっと人数が多いです』
「前後を塞がれたってことは騎士団の増援は遅れるのかな?」
『勇者様も居ますし、大丈夫ですよ』
ちょっと焦ったようだが、魔術師は笑顔を見せた。
うん、いい笑顔。これで落ちなかったとは義従兄相当の面食いか。いや、脳筋だっけ。
暇なんでチラッと幌の隙間から外を見る。視界が狭くてよく見えない。
出ちゃダメだろうか。
『マリアンヌさん。ちょっとなら開けても大丈夫ですよ』
うずうずしてたら魔術師から許可が出たので、幌をめくって覗いてみた。
お、勇者が無双してる。でも、相手の人数がちょっと多いな。見た感じは生け捕り狙いかな。だったら、武器を持つ手と、両足潰せばいいだけなんだけど、囲まれてるし…。まぁ、魔王を倒すために召喚された勇者が人間を倒しまくるのもなんだから、こんなもんかな。
私なら遠慮はしないな。正当防衛の範囲で叩きのめす。相手が殺る気で来るならこっちもその気じゃないと、か弱い乙女じゃ太刀打ちできないもんね。
でもまぁ、基本的には師匠の名言『剣を折るより心を折れ』に従う。
か弱いと思ってた相手に半端に反撃されるより、足蹴にされ踏みにじられた方がポッキリ折れるもんだ。
面倒だし今日のところは高みの見物にしよ。
ああ、勇者これだけ強いと危険過ぎて逆に日本に帰っても生活できないな。ウザいから帰って欲しいんだけどな。で、二度と来るな!




