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宿場町に着いた。カスレは地方とはいえ大都市だから、途中の宿場町がちゃんとしてるのがいいな。野宿とかマジ勘弁。出不精なのに出てきたんだから、せめて寝るときくらいは快適に過ごしたい。
今日の宿は中の上ってとこで従姉と同室。シャワー付きの上等な部屋じゃん。って思ったら、勇者の部屋にはバスタブがあるらしい。
『入りに来る?』って言うからとりあえず頭に一発入れといた。
汚れが落ちれば充分じゃないか。ってか、ウチでは行水か清拭なんだよ。シャワーってだけで贅沢だ。
魔法を使う人の中には呪文を唱えるだけでキレイにできる人もいるみたいだけど、私には魔法は使えない。お湯を沸かして濡らした布で拭くだけ。夏は川に飛び込むから楽でいい。
夕飯は一階の食堂で、同じテーブルには従姉、リール商会の専属魔術師、剣士、勇者そして第3騎士団から3人、副団長(今回の責任者)、一号二号がついた。
副団長は勇者の接待兼ねてるから仕方ないとして、一号二号お前ら私や従姉からブランシュのことを聞き出そうと思ってるだろ。教えてやるもんか。って思ってたら、妹へのお土産の話で勇者と盛り上がってるじゃないか。勇者あとでお仕置き決定。
ちなみに消えものは全員に違うもの、残るものは全員に全く同じものを貰うように教育してある。食べ物が重なるとキツいからね。
全く同じものを貰う理由については乙女の秘密だ。質屋は偉大だ。
ってか、テーブルの皆が〈カレーではない何か〉を取り出して料理にかけてるの不気味だよ。料理人にも悪いし…。
『マリアンヌは使わないの?』
「好きじゃない」
『作ってるのに?』
「おかげで匂いにも飽きた」
『マリちゃんは辛いの苦手だから。なのに開発中は試食してくれたんだよ』
『もう、ラブラブね』
誰がっ!
あのウザさに耐え切れなかっただけだ。毎日毎日スパイスの調合をしながらカレーへの愛をつぶいてたんだよ。早く終わって欲しいと思うのも人情じゃん。
『カレー食べたい。カレーライス、カレーうどん、カレードリア、ドライカレー、ライスカレー、カレーコロッケ、カレーパン、カレーシチュー…ああ、カレー食べたい。ビーフカレー、ポークカレー、チキンカレー、シーフードカレー、カツカレー、野菜カレー、納豆カレー、………』
思い出すだけで身震いがするわ!ほとんど呪文だな。
もうカレーなんて二度と見たくなくなるわ!




