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五日後、勇者は現れた。
『蕎麦できた』
なんでも麺職人に弟子入りして不眠不休でそば粉で麺を作っていたらしい。
アホですか?アホだよな。うん、わかってた。ってか、勇者に頼まれたら職人が断れないことくらい気づけ!迷惑だろがっ!そば粉なんて未知なものを持ち込まれて麺にしろとか無茶ぶりにもほどがあるわ!
『待っててね。すぐに打つから』
と、傍らに置いたメモを見ながら、小麦粉とそば粉を混ぜ始める勇者。
時間かかりそうだし、とりあえず今日の家事をこなそうかな。
勇者はメモ以外には脇目も振らずに熱心に蕎麦を打っている、たぶん。だって家事が忙しいから横目でしか見てないし(笑)
昔々、仕事をしていた私のことを集中し過ぎてて怖いと同僚が笑ったが、こんな感じだったんだろうか?あの頃はシゴトスキーだったからな。今は妹が可愛すぎて働きに行く気がしない。
ん?ちょっと待てっ!
「それは麺棒じゃない!」
勇者から愛用の棒を取り上げようとしたら、かわされた。
『大丈夫。これは物干しには使われてないやつだよ』
観察されてたか。それは、確かに調理道具兼護身用のやつだ。家の中が棒だらけってわけでもないが、便利してます。
で、嬉々として麺に切ってるのは、勇者の剣じゃないの?もしかしてツッコむとこかな。いや、無視しよ。
勇者が打った蕎麦を茹で、スープに入れてさあ、召し上がれ。
『…マリちゃん』
「ん?」
『汁が変』
「今日のスープは弟のリクエストでレンズ豆の〈カレー〉風味だよ♪」
にこにこ。
『汁が違うぅ』
また泣いてるやん。
「かつぶしも醤油もないことを忘れたか?」
言い放つ。
『くそぉ、次は醤油開発だぁ!』
頑張れ←棒読み。
開発するまで来るな!




