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『マリちゃんって転生前の知識あるじゃん』
なんだよ、唐突に。今から掃除すんだから邪魔すんな。
『それを使って、世の中を救おうとか、変えようとか…』
「しない」
きっぱり。そもそも一人の力で世の中を救おうだの変えようなどとおこがましいわ。勇者じゃあるまいし。
ああ、コイツ勇者だっけ。召喚チートで無双なんだっけ。
『なんで?』
「面倒くさい」
むしろ、掃除をしようと考えてるぞ。
『転生にあたって神様から何か…』
「会ったことすらない。無神論者だしな」
『仮に神様から頼まれたら?』
しつこいな。またなんか怪しい物語か。物語と現実をごっちゃにされてもな。
「断る」
『ええっ、神様の頼みごとだよ。断れるわけないじゃん』
「だが断る」
そもそも無神論者に神が頼みごとをすること自体が変だろ。ってか、いないし。
「絶対に断れない〈頼みごと〉をするヤツは嫌いだ。実力行使してでも断る」
『…えーと、じゃ王様に頼まれたら』
「仕事なら報酬に見合う範囲でやるが、それ以上を望むなら国外逃亡する」
もちろん今の生活を脅かすなら、それ相当のお返しはする。
『マリちゃんなら王様と闘うかと思った』
「そんなん面倒くさっ」
するとしたら報復だけだ。
『マリちゃん片寄ってるけど、色々知ってるから向こうの技術を…』
ってか、なんでコイツは勇者の役割を町娘の私に求める?
たしか召喚勇者が異世界の知識を伝えるんだよな。そう聞いたぞ。
「自分でやれ」
勇者の顔が少し引きつった。
やっぱりな。
「王様からなんか言われたんだろ。異世界の知識でなんちゃらとか」
勇者はコクコクと頷いた。
「だが、食欲だけのお前は伝授すべき知識がないと」
テヘって笑うな!一応、大人だろ!
「〈カレーではない何か〉を持って行って、スパイスが足りんから国内外から集めて来いって要求してみろ!それで充分なはずだ」
『なんとぉっ!逆に王様の力を使ってカレーを完成に!』
食べもののことになるとキラキラの笑顔になるな。
「使えるものは王でも使え!ついでに念願の米も探して貰え!」
『じゃ、献上する〈カレーではない何か〉をちょうだい』
「父の店に行って金払って持ってけ!」
掃除の邪魔だ。
僕が開発したのにとか何とかボヤいてたけど、レシピ貰ったからには私のもんだ。商売してんだから、タダはないだろ。
ってか、王宮に行ったらまたそのまま居着いて二度と来るな!




