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『マリちゃん、ただいま』
勇者が戻ってきたのはきっかり一週間後。
早いな。勇者のチートを使ったか?現実問題それどうなん?魔王を倒した後で、こんなのを野放しにしてていいんか?しかもコイツ食べ物にしか興味ないし。
「どなた様でしたっけ?私はマリアンヌと申します。マリちゃんではありません」
全力で拒絶します。
『マリちゃん。勇者だよぉ。忘れないで』
だから大人が泣くな。
そういや、勇者の名前って何だっけ?まぁ、いいや。覚える気もないし。
『同郷の勇者だよ』
「私、生まれも育ちもここ王都です」
少なくとも今世はそうだ。
『…マリちゃぁん。日本について会話できるのマリちゃんしかいないんだよぉ。見捨てないでぇ』
だから泣くな!
ああ、もしかして、所属欲求が満たされてないのか?自分の所属がまだ向こうの世界にあると思うからだ。召喚の問題点なのかな。私みたいに前世がきっぱり終わって転生したのとは違うから?
うん。きっとコイツは諦めが悪いんだ。戻れない過去にしがみついても仕方ないだろうに。
「で、勇者様が何の御用でしょうか?」
『マリちゃん。相変わらず冷たい。…でも、最近その冷たさがないと物足りなく…』
怪しくつぶやく勇者。
「変態だな」
妹たちに伝染らないように隔離しよう。
『にがりのためにこれを採って来たんだよ』
変態と呼ばれても笑顔で勇者はいつもの四次○ポケット(かばん)から樽をいくつも出した。
量もさることながら、その開口部からそのサイズが出ることが物理的にムリだといつも思う。
『これ何?』
白い目で見る。
「海水♪」
ボスっ!
勇者専用カップを投げつけるんじゃ足りない気分だったから、立てかけてあった棒を使った。
「アホかっ!濃縮と塩の分離ぐらいしとけ!」
四次元○ケットに入るからってそのままで持ってくるバカがどこにいる?…目の前だな。
『どうするの?』
「じっくりコトコト焦がさないように煮込んでみたら」
『お塩が出来たら分けて、できた濃縮液がにがりなんだね』
「多分な。ここの海水に充分な量のマグネシウムが含まれるという前提があるが」
『頑張るよ』
「薪がもったいないから自分ちで煮詰めてね。じゃ、バイバーイ』
よし帰れ!で、二度と来るな!
 




