54
ノックの音にドアを開けたら、騎士が立っていた。
初めて見る顔で、左腕を白い包帯で身体に固定されていた。
『マリアンヌ嬢でしょうか?』
はい。
『北の魔の森駐在所から王都に赴任して来ました!第3騎士団の…』
はい?
『騎士団長から挨拶に伺うように仰せつかりました』
ごめん。イミフ。なんで普通の乙女に騎士団の赴任の挨拶が来るの?
「えっと…すみません。私は単なる町娘で、騎士団の方から着任の挨拶に来られる立場ではないのですが?」
『〈カレーではない何か〉には大変お世話になってます。どんな食事もあれを使うとおいしくなります』
「はぁ」
どんな食事も同じ味になるの間違いじゃね。ってか、だからどうした?
『マリアンヌ嬢は勇者様のお世話もなされているとか』
いや、それは押しかけられて、大変迷惑してるんだけど。取り締まってくれ。
『勇者様がワガママを言った時にはマリアンヌ嬢を頼れと団長に言われました』
私は猛獣使いかっ!
『任務中にこの通り怪我をして、王都に戻されて、今役立たずなんですよ』
明るく言うな。
骨折だよね。腕を吊っててもいいけど、騎士ともなると反射で動かしちゃうから固定なのかな。バランスが取りにくくて走るのは大変だろうな。
「まぁ、お怪我は大丈夫ですの?」
『子供を庇って崖から落ちたらポッキリいっちゃいました』
………明るいな。
「魔の森に子供が?」
『勇者様のおかげで魔物減りましたから、木の実を採りに入るようになって』
痛し痒しか。魔物が減ったら、事故が増えるなんて。
『おかげで魔の森から王都に移動できてラッキーでした♪』
おい!
『〈カレーではない何か〉が使い放題♪』
「放題やったら、騎士団が潰れますよ」
叔母が第3騎士団への卸値を下げて納品量を増やしたのは把握してるけど、それでも高いよね。ってか、叔母のとこでの生産量マジ凄いらしい。スパイス革命起こす気かな。
『あれを広めたマリアンヌ嬢に感謝って感じです』
「開発したの勇者様だし、今や製造は叔母のところで一手にやってますし、私は関係ないですわ」
簡単に言うと関係ないから来るな!
『謙遜しなくても…』
私は普通の町娘だし、騎士団とは関わりたくないから!
「せっかくレシピを勇者様に頂いたのに、私には重すぎましたの。ただの町娘に過ぎないんですもの」
面倒だし。ひたすら同じ調合するのって性に合わないし。面倒だし。
ってか、丁寧な言葉づかいするのも面倒なんで、帰って下さい。で、この元凶の勇者、お前二度と来るな!
 




