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とりあえず、煮込むだけになったポトフを放置してまったりティータイム。
『ねぇねぇ、何飲んでんの?』
テーブルの斜向かいで白湯を飲んでる勇者が私のカップを覗き込んだ。
「リンデン」
『リンデンって?』
「菩提樹」
『悟りひらける?』
「かもな」
『飲ませて』
伸ばされた勇者の手からカップを死守する。
「自分のがあるだろ」
『味しない』
白湯だからな。
しょぼんとする勇者だが、身体がデカいし可愛くないぞ。
『マリちゃん、会話弾まないよぉ』
そりゃあ全力で拒否してるから当然だ。マリアンヌだし。
『せっかく2人っきりの甘い一時じゃん。楽しもうよぉ』
「わかった」
戸棚から蜂蜜を取り出して、テーブルに戻った。
「カップ貸せ。甘いのが好みなら、特別に入れてやる」
『じゃなくてぇ』
拗ねたって可愛くないから。
「そろそろ妹が帰って来る時間だな。迎えに行ってくれるか?」
『行きます!行きます!マリちゃんのためならいくらでも』
右手を挙げて、椅子を蹴倒す勢いで勇者が立ち上がった。
壊すなよ。椅子は父の店では売ってないんだから。
「遅くなるって言ってたから、まだ学校だと思うの」
『行って来まーす』
さすが勇者足は速いな。あっという間に見えなくなったよ。
すぐに反対の角から妹が顔を出した。
『お姉ちゃん、ただいま』
妹まだ小さくて可愛い。この世界は中世風なんだけど、教育が充実してていいな。日本ほどじゃないけど、読み書きと四則演算は教えてくれる。
『友達ん家で宿題は進んだ?』
「うん、バッチリ」
『あれ?お客さん来てたの?』
妹がテーブルのカップを見て首を傾げた。
その角度、超可愛い。
「勇者様。今帰ったとこなの」
カップを片付けて夕食の支度を始めた。
あれ?勇者って学校に向かったんだっけ?まぁ、いいや。
二度と来るな!