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有名な盗賊団が居なくなって、全体的に犯罪の減ったほのぼのとした昼下がり勇者がやって来た。
『マリちゃんお腹空いた』
人の食べてるチーズをじっと眺めるな。お行儀悪いヤツだ。
白湯とチーズの端っこを渡す。
『そういえばさ、マリちゃんとこでまともなお昼ご馳走になったことないよ』
「うちは冒険者でも王侯貴族でもないから基本2食だよ」
何を言ってるんだ。
『えっ』
「朝はパンと何か、夜はパンとスープと何か一品あるかないか」
『お昼は?』
だから無いって。
「昼間はチーズとか果物とかを軽く摘まむ程度かな」
『マジでっ』
「マジで。王都でも中心部は3食になってる場合もあるけど、周辺部のこの辺りなら普通だよ」『お腹空かない?』
「陽が出てる時間しか活動しないし。もし、とてもお腹が空いたらパンをかじる」
『そんなもんなのかな』
さ迷う勇者の視線が急に止まった。
『…………マリちゃん』
「ん?」
『…あれって』
勇者が指差す先には私の身長とほぼ同じ長さの棒があった。
『もしかして護身用?』
「うーん。突いたり、押したり、伸ばしたり、洗濯物干したり色々便利に使ってるよ」
『…そうなんだ』
その後、勇者は黙々と白湯を飲んで、早々に帰って行った。
何なんだ?お昼ご飯をたかりに来ただけか?
もう二度と来るな!
 




