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 とりあえず、情報集めに入った。吟遊詩人である伯父にデーデ便を送り、王都での情報網を駆使し、商業ギルドに冒険者ギルド、さらには妹とお友達(王女)とのお茶会にも紛れこんだ。

 結論から言えば、王侯貴族のお茶会は面倒。違った。そっちじゃなくて

 島国な隣国は魔物の討伐が進んでいないらしい。この世界の常識では、閉鎖環境では魔物が強力になりやすいらしい。根拠不明。証拠なし。島国だから魔物が強くて倒せない?

 ごめん、よくわからない。

 魔物をビンに閉じ込めたら強くなっちゃうとでも言うのか。ちっちゃいけど。壺ならそれなりに大きなものもあるけど、強い魔物より大きなものはできるんだろうか。


 それとも蟲毒みたいな感じで闘いあって強くなるのかなぁ。よくわからん。


 島国って言ってもかなり広いらしいし、それが閉鎖環境?

 それ言うならこの大陸だって閉鎖環境じゃないか。せめてどの程度の面積以下だとヤバいとか、目安いいから出せ。できれば根拠を出せ。推論に至る様々な事象を列挙するだけでもいい。精査するから。

 根拠も無いが、統計を取ったわけでも無く、なんとなくそんな気がするって言うのが一番嫌いだ。誰かが誘導している可能性だってあるじゃないか。

 隣国に不利益な噂で得するヤツ多そうだしね。



 うん?

 よく考えたら、そこはどうでもいい。

 とにかく隣国が勇者の力を欲したのは間違いないらしい。で、この国は様々な条件をつけてそれを引き受けたと。


 …おい。

 もう決定しているじゃないか。

 私が断ったら勇者も行かないんだぞ。

 ふざけるな。


 妹は初めての旅にウキウキしている。

 いや、まだ返事してないだろ。

 楽しそうにハミングしながらジャガイモをスライスしているのを横目で見ながら、玉ねぎをザクザクと切る。

 昨日、勇者からベーコンとバターをゲットできたので、今夜は前世からの得意料理にした。

 玉ねぎ、ジャガイモ、ベーコン、玉ねぎ、ジャガイモ……呪文のように唱えながら鍋に重ねていく。ベーコンの上にバターを載せたら、蓋をして火に掛ける。火加減に注意しながら、玉ねぎがとろとろと飴色になれば完成だ。


 チビが好きだったなぁと珍しく前世に思いを馳せる。重ねたらオーブンにぶっ込んでおけばよかったので、よく作ったもんだ。仕事の合間においしくなる。っていうか、玉ねぎとジャガイモとベーコンにバター。おいしくならないハズがない。ベーコンとか玉ねぎとか旨味が出るし、変に味付けしない分失敗もない。生焼けでも多少焦げても大丈夫。ああ、オーブン欲しい。薪で作るのはめんどくさい。


 妹も作り方を覚えてきたし、任せてみるのもありかな。面倒だからじゃなくて、家庭の味的な意味で。

 いつかは独立するわけだし……あぁ、妹の結婚相手はちゃんとした人じゃないと。変なヤツだったら、叩きのめして……。

 貴族だけど騎士団ってのもありか。下級貴族ならそんなに庶民と変わらない生活らしい。妹を守れる技量があって、万が一の時も保障がある。冒険者だと死んだらおしまいだからなぁ。ロリの一から三号もある意味優良株か。感情と理性のせめぎ合いだ。理性的に考えると騎士団員は問題なし。感情で判断すると妹を任すのはアイツらではイヤだ。


 深呼吸、深呼吸。


 感情で決めるな。論理的に考えろ。

 いつまでも私が守れるわけじゃない。私は兄とは違う。任すなら誰が最適か。


 …まだ、考えなくていいや。

 ああ、でも情報は集めておく必要がある。騎士団にいるヤツと町娘の接点は乏しい。本性を見極めるならある程度の期間じっくり見るといい。って、やっぱり行けと言うのか。




『マリちゃん、マリちゃん』


 ウザいヤツが来た。声と気配でわかる。振り返る必要すらない。


『マリちゃんも一緒に行ってくれるってホント?』


 ホントじゃない。


『ホントだよ』


 こら、勝手に返事するんじゃありません。


『お姉ちゃんと一緒に馬車や船に乗るのが楽しみ』


 やめて、その笑顔。頷きたくなるから。


『ってか、さっきからいい匂いがすんだけど……バターと…ベーコン……それと…』


 玉ねぎだな、この香りは。甘い香り。


『お姉ちゃんの得意料理なの』


 間違ってないが、なんか違う気がする。どうでもいいや。妹の笑顔がかわいいから。



『夕飯一緒に食べてもいい?』


 妹に聞くとか勇者も慣れてきたな。

 ああ、この弱点をなんとかしないとヤバいことになる。わかっているのに。

 ホント感情は邪魔だな。正しい方向がわかっているのに、そちらに行けない。

 理性で判断して、感情を消せ。論理的に考えて正しい方へ行け。がんばれ、自分。

 鼓舞してないと丸め込まれる、妹に。


『また色々買って来てくれる?』


 勇者に向かって小首を傾げる姿はとってもかわいいけど、それって貢がせているんじゃないだろうか。

 いや、私が言う話でもないが。


 確か最初は迷惑料だったよな。

 最近惰性になっている。

 面倒なんだよ。興味ないことを考えるのは。

 できれば、思考の全てを興味の方向に回したい。


 あ、弟妹は興味の方向だから。あんなにかわいい存在は二人しか居ない。騙されても、いや、厳密に言えば騙されたことはないが、利用されても、かわいいものはかわいい。

 

 いや、そんなことはどうでもいい。問題は隣国の件が面倒くさいに間違いないことだ。厄介な匂いがしまくっている。


 重ね焼きで余った野菜は昨日の豆スープの残りに放り込む。かまどが2つあって本当に良かった。弟妹にお腹いっぱい食べさせたいからな。大量のベーコンをせしめたので、厚目に切って、直火で焼いて弟と父には追加するか。弟は力押しするタイプで、父はバランス型だ。……さすがの父も歳だからな。いつまでもパワーファイターではいられないだろう。とにかく、二人とも筋肉の維持が重要で…あ、弟は一応、肉体労働してるんだっけな。にしてもいつも食べ過ぎだと思うぞ。

かなり大量に作らないといけないから水汲みだけでも大変だ。それはうちのメインがスープだからで、勇者からゲットする肉は負担軽減にはなる。

 勇者から貰えなくなった後のことを考えると、肉に慣れすぎても困るんだ。もっと豆をゲットして地下にでも備蓄しとくか。いざとなれば肉は獲りに行けばいいんだよな。うさぎくらいなら余裕だ。鹿くらいのサイズになれば、食べがいがある。鹿を獲るなら勇者が壊してしまったクロスボウを再度作ってもらうか。叔母のことだから、もう改良型ができているかもしれない。あの人怖い。商機は逃さないから、(ひと)の失言から密かに色々開発してそうだ。昔と違って最近は気をつけているから、増えてはいないと思うけど。子供は欲望に忠実だから、欲しいものは欲しいと言いまくっていた気がする。

 アレで稼いだんだよね、きっと。馬車でかなり儲けたって聞いたし。

 前世のことをすっぱり忘れられるといいんだが、意外と覚えている。特に専門。ん? 前世の私の専門ってなんだ。興味の向くまま、好き勝手をしてきたような……いや、きっと気のせいに違いない。どうせ、ツヴァイしか知らないんだ。聞いても無駄。嘘を言われてもわからない。


 今日はツヴァイは面接だって言ってたな。食堂二号店の料理長候補。予定地の候補は見つかったらしい。潰れた宿屋。料理が不味かったらしいが、黒パンと豆のスープで器用だな。私が作ってもそこそこのができるというのに。

 もしかして、つい、要らんアレンジしちゃう病か。重症になると食べらないものまで放り込むと聞いたことがある。もしそうなら、泊まるヤツなどいないだろう。

 ってか、そこで商売ってアリか? ヤバくないか。うーん。


 ツヴァイに一任で。その辺りは私が考えても無駄だろう。勝算はあるんだと思おう。ヤツも商売人だ。むしろ、私より商才があるだろう。失敗しても特に大きな損害は無さそうだし

 考えながら、火加減を調節する。焦げ付いたら、失敗だが、玉ねぎが充分柔らかく甘くなってる方が美味しい。




『姉貴! 俺のためにちっと旅に行ってくれ』


 玄関を開けるなり、弟が大きな声でとんでもないことを言った。


『お兄ちゃん、おかえり』


 妹の笑顔が最高。じゃなくて、


「エリックおかえり。で、何?」

『ただいま。姉貴がちょっと隣国に遊びに行ってくれたら、御前試合の出場者の中から好きな相手と対戦できるんだよ』


 最高だよなってその幸せそうな顔は、確かに最高だけど。


「宰相が来たのか?」

『うん、視察』


 違うから、視察違うから。戦闘狂のツボをついた作戦だこと。

 宰相もバカでは無かったということか。搦め手で来やがった。弟妹に弱いことがバレてる。そりゃ、そうか。もう長いこと観察されてるし。


 さて、どうするか…

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