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『えっと…二人とも転生だよね』


 今日も勇者がウザい。

 晴天の昼下がり、と言ってもこの辺りはそんなに雨が降らないので毎日ほぼ晴天である。いつものように各自自分で用意した飲み物を飲んでいた。つまりは、私がリンデンで、ツヴァイがミント、勇者が白湯である。タンポポコーヒーには飽きたらしい。淹れるのが面倒なのかもしれない。


「転生もなにも、王都生まれの王都育ち」

『今生でない記憶を持って生まれてきたというのがあなたの言う転生だとしたらそうです』


 ツヴァイも言葉の定義にうるさいな。確かに転生って何かは難しい問題だ。もし、輪廻転生が当然のことなら、誰もが転生者。記憶があるかないかではない。たまたま記憶があるのが目立つだけだ。


『ってことは前世は亡くなったんだよね』


 今さら定義の確認か?

 異世界転生とか異世界転移、憑依に召喚辺りの区別をつけようとか言うのか?

 よく知らんぞ。興味もないし。


『亡くなったんですよね…?』

 ツヴァイがこちらを向いて確認してきた。


「葬儀(お別れ会)やったぞ」

『ありがとうございます』

「火葬費用くらいは遺しとけ」

『アハハ。すいません』

 

 ツヴァイが軽い口調で笑った。

 遺す相手が居ないからと最期の頃は、収入と支出のバランスをギリギリで組んでいたんだろう。医療費とか清算したら、きれいさっぱり無くなって、関係者でこじんまりしたお別れ会を出したんだぞ。当人も無神論で主催も無神論なので宗教色が全くなかった。

 あの立て替えた費用返せって、前世のことか。なら、今は関係ないな。


『マリちゃんは?』


 普通に覚えてないけど?

 むしろ、自分が亡くなったことを覚えている方が稀有なことなのではないだろうか。いや、知らんけど。

 今ここに居るんだから、当然前世は終了したんだろう。

 自明の理ってやつだね。


 そういえば、前世のツヴァイが亡くなって、後に私。ツヴァイが生まれた後に私が誕生していると言うことは、時系列的には合っているのか。

 世界が違うし、N=2なので、時間軸が合ってるかどうかは定かではないが。

 ふむ。興味深いな。並行世界は四次元的な繋がりではなく、時間の流れには逆らわないのだろうか。

 死後の世界が時間軸にとらわれないと、前世と来世が逆転とか、同時に同じ魂?が存在してもおかしくなくなる。そうなると、そもそも魂?とは何かと言う問題に……いや、それは時間軸の問題にとどまらないか。

 そもそも、転生とは何だ。自我とは……ああ、面倒くさい。哲学的な話だな。うん、放置で。

 哲学苦手なんだよね。理解できることと、意味不明なことがごちゃ混ぜで。自分の我を通す以外で他人の考えとか、思いとか、考えたくないわ。自分勝手で何が悪い。それを通すだけのことはして来たつもりだ。

 ああ、今生きている世界は幸せだ。責任さえ取れれば、割と自由。商売してもいいし、開発してもいいし、まったり生きてもいい。それだけの生活を支える資金を準備できれば、誰も文句は言わない。そりゃ、難癖付けて来るヤツはたまに居るけど、黙らせればいいだけだし。

 法が甘かったり、技術水準が低かったり、大量生産できないから人口が少なかったりと色々原因はあるんだけど、自己責任の範囲が大きくて、何かあったら直ぐ人生が終わってしまったりもするんだけど…


『マリちゃん、やっぱり転生の時はトラック?』


 はあ?

 思考は勇者の謎の発言で遮られた。


「トラック?」

 魂がトラックで運ばれるのか?

 それとも、トラックを周回しないと転生できないのか?

 トラックボールよりはマウスの方が好きだけど…

 もしかして、トラック諸島が何か…あれ? トラック諸島って名前変わったんだったっけ? 名前変わったのは他の島だったかなぁ。トラックから変わるんなら、ダンプ? まさかのトレーラー? そういえば、クレーン車のラジコン結局眺めるだけで遊ばなかったなぁ。失敗した。チビと楽しめばよかった。チビは乗用クレーン車(お子様向け)でうちの畳の部屋でドリフトとかしてたっけ。畳を掘ろうとしたり…ああ、可愛かったなぁ。なんだかしらないが、母親が慌ててたっけ。やっぱり畳はソレでは掘れないと教育すべきだったかな。


 ああ、今は弟妹が超かわいい。ホント、幸せ。



『ラノベで多いですけどね』


 ふむ。ツヴァイには通じてるらしい。考え込んでいたら話が進んでいた。


『私は違いますよ。トラックには轢かれてません』

「入院してたもんな」

『えっ、不治の病かなんか?』

 勇者が不安げに聞いてきた。そういうのもラノベであるんだろうか。でも…


「心筋梗塞から血栓が飛んで脳梗塞」

『いやあ、左手が全く使えなくなって困りました』

「右だったら言語野やられる可能性もあるから意志疎通ができてよかったんじゃん?」

『でも半側空間失認?だかで車椅子はぶつけるし、ご飯は食べ残して…いや、色々…』


 見舞いに行ったの多分一回だからよく知らんかったな。知人代表として色々手配はしたけど。


『なんか、あっさり話してるけど、大変なことじゃ…』

『前世のことですから』

「過去のことだし」


 勇者の発言を二人でぶった切った。

 自分たちが手出しのできない、起きてしまったことは受け入れるしかない。その上で最善と思われる対処をすべきだ。

 それはあの時も今も変わらない。

 今はもう何もできない。

 あの時は、ツヴァイはリハビリして社会復帰をしようとした。私は自分の生活をしながら、空いた時間に………そうだ。緊急連絡先が私のとこになっていたから、入院直後に呼ばれて、それから、入院中に何回か届け物して、退院の日も迎えに……

 知人のわりに通ったんだった。



『結局、退院してないんですよね』


 ツヴァイが聞いてきた。

 あったとしても、退院前日の夜までの記憶しかないだろう。


「自宅への退院予定日に死亡退院だ」


 心筋梗塞で血栓ができた場合、何回かに分けてそれが飛ぶことがある。それがあの日だった。身体を動かし始めるとすぐに飛ぶことも多いのだが、彼のは軽いリハビリにも耐えた。耐えてしまって……あの日の朝、目覚めることがなかった。


『まぁ、仕方ないですよね。もう、あちこち限界でしたから』


 大げさにため息をつくツヴァイに勇者が心配気な表情を浮かべた。


『やっぱりなんか悪い病気でも…』

「加齢」

『歳ですよね』

『白石さんって前世もマリちゃんより年上?』

『白石じゃないし、佐藤でしたが、やっぱり年上でした。いつかは同い年か年下になりたいもんです』

「いつまでついて来る気だ」

『貴女が貴女である限り。是非とも楽しみたいもんです』


 生死を超えてストーカー宣言かよ。


『でもさ、マリちゃんの方が後から生まれたんだから、マリちゃんがついて来たんじゃ……』


 手が滑って持っていたスープ皿が飛んだ。勇者目掛けて。

 木でも当たりどころが悪ければ割れることがあるんだから気をつけないと。

 手が滑っても勇者の方が避けてくれるから安心だ。


『いや、私ですよ。社長が次に生まれるところで生きられたらって願ったのは』


 ツヴァイ……やっぱりソレはストーカー宣言。


『ダメ人間ですから、キチンとフォローしないと色々危ないんですよね』

「…おい」


 さりげないふりして、人のことを貶すんじゃない。


『案の定、色々危ない材料集めてましたもんね』


 あ……隣ん家に薬品置いといたんだっけ…。

 まぁ…色々作れるしね。

 えっと…少しは試作はしたかな。


 前世は色々制約があったので…ちょっとはっちゃけた気もしないでもない。


 いや、気のせいだろう。記憶に無いんだから、気にしてはいけない。


『マリちゃん、自由人だもんね』

「キチンと法は守っている」


 穴は突かないとは言わない。

 むしろ、積極的に穴を活用する。

 自由といえば聞こえはいいが、全ての責任を負うということだ。

 だから、一人でやるのが、気楽だ。そうは言っても、そろそろ手が足りなくなってきたので、気心が知れたツヴァイが便利。ツヴァイの方が押し掛けて来たんだし、ツヴァイはその責任を負う必要がある。

 ツヴァイは私の性格を知ってなお、私と仕事をすることを選択したんだ。わざわざ、国を超えてまで。

 ……頭おかしくないか。わざわざ苦労しに、世界中、探し回るとか。

 まあ、いい。便利に使い倒そう。とりあえず、面倒なことは押し付けて……

 

 一番押し付けたいのは勇者なんだけど。思い込みの激しいタイプは誘導が難しい。乗ってくれたら後は楽なんだけどな。

 コイツはこっちに来てから最初に会った向こうの話が合う(わたし)に思い入れが強いみたいだからなぁ。

 面倒くさいなぁ。


 勇者好みの女性が転移して来ないかなぁ。

 じゃなきゃ、帰れ! 日本に

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