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夢にまで見た平和な日々。勇者に出会ってから失われていた安寧が戻ってきた。何気ない日常。前世に比べればいくらか不便ではあるが、洗濯も好きだし、家族との夕食も大好きだ。
どちらにしろ、前の人生は終わってるわけだし、今を楽しく生きるのが一番。
たらいでシーツを洗っていると、来客があった。干し終わるまで待って貰って玄関に行くと、そこには見知らぬ男がいた。がっしりとした体躯で帯剣してて、服装からみると騎士団?しかも上位の…。
男は第3騎士団団長と名乗った。名前は右から左へと流した。関係ないもん。
『マリちゃ………マリアンヌ嬢でしょうか?』
ん?なんか不穏な言葉が聞こえたような。
「はい、マリアンヌです。騎士団長様」
『あ、あの…こちらに来れば〈カレーではない何か〉が購入できると伺ったのですが…』
「ああ?」
誰から!いや一人しかいないが。勇者か。勇者何に巻き込むつもりだ。あ、やべえ。つい睨んじゃったら、騎士団長様がなんか怯えてるよ。
「勇者様ですか?」
慌てて取り繕う。笑顔、笑顔と。
『はい。北方に同行した際に勇者様の使っていた調味料が騎士団の中でとても評判になりまして、第3騎士団の食堂に卸して頂きたく』
勇者、お前何やってる。食い気だけか。そうだな。あいつは食欲だけで生きてるな。
それでなんで騎士団長を寄越す? ったく超面倒事の気配がビンビンするじゃないか。
ああ、もう勇者二度と来るな!




