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空き地にいる。王都の中で唯一魔物が出現するため、何も活用されない場所。王都を囲む塀の内にあって、人気のないうら寂しいところ。


半端なんだ。

魔物退治で名声を成すには出没する魔物が雑魚すぎて、かといって冒険者に成り立てがレベルアップを図るには魔物が強すぎる。数が増えれば冒険者ギルドも動き出すが、たまにしか出没しないので、騎士団の通常の見回りレベルで何とかなる。

しかも、ここの魔物は空き地から数mまででその外に出ることもない。王都全体からするととるに足らないこの狭い空間だけが生息地なのだ。従って、騎士団の見回りも滞り気味らしい。


一般人が寄り付くには危険過ぎて、玄人が手を出す旨みはない。面積も広くなく、活用するほどではない。そんなわけで、打ち捨てられたようなこの場所はウチの格好の遊び場である。


今日は春の野草採りだ。主にヨモギやタンポポだ。

近づく者がほとんどいないから野草が生えるが、水源があるわけでもなく大した量にはならない。普通の野草が普通に育つ、そういう意味でも中途半端だ。珍しい薬草でも生えれば、魔物の危険を犯す必要もあろう。マジ平凡な空き地になぜか魔物が出現するというハイリスクローリターンな楽しい遊び場である。

ハイリスクノーリターンよりずいぶんマシじゃん。って思うけど、スラムの住人ですら寄り付かない。子供に物心ついたら、ここには近寄らないように諭すのが、王都の大人の役目であるらしい。

ウチでは安全な遊び場って教わったけどな。ただ、家からちょっと遠いからと一人で遊びに行く許可が出るまでかかったくらいだ。自力で倒せるようになるまではってことだったと今ならわかる。



とにかく、今日は天気もいいし、野草採りである。

ついでにちょっと軽い運動もする予定だ。ここに来るまでに最近時々いる尾行者はまいてきた。赤毛を隠して市場の喧騒を抜ければ大抵居なくなる。多少のコツはあるが、赤毛を目標の一つにしている場合、途中で隠すだけで高確率で引っ掛かる。


この空き地への入口は3つある。一つはよく知られたもの。もう一つは前に妹が騎士団を誘導したルート。これは裏街道を歩くヤツなら多分知ってる。最後は完全な裏道だ。空き地周辺はずいぶん前に打ち捨てられた地区だから崩れそうな建物の隙間を抜けるこのルートは人気(にんき)がない。じゃなかった、人気(ひとけ)はない。まぁ、魔物が出没するのに逃げ場のない道を利用するヤツは少ないのかもしれない。今日はそこを通ってきた。


30分ほど野草を摘んでいると、遊び相手が出た。

ここに常備してある六尺の棒をさっと構える。魔物にやられないコツは第一に相手を見極めること。勝てる相手なら速攻。やられる前にやる。攻撃は最大の防御。勝てない相手なら三十六計逃げるにしかず。逃げ方が難しいんだけどね。

今日の相手は、ってか、ここの相手は基本的に先制攻撃でオッケー。ただ、いつもそうだと思い込んでいると足を掬われかねない。魔王がいる時は特に危険だしね。連動するっぽい。



魔物がひれ伏するまで4分かかった。スピードファイターにはキツいが、体力作りを兼ねていたので、ちょっとばかり鬼ごっこをしたせいだ。

攻撃を避けつつ、相手の勢いを利用してカウンターアタックを決める練習である。たまにやらないと鈍る。

毎朝、家族相手に軽い運動はしているが、相手が固定化するとパターンを読み切ってこちらもパターン化しやすい。なるべく多くの相手と手合わせすることによってワンパターンにならないようにするしかない。


うーん。たまには冒険者ギルドの鍛錬場に遊びに行くのもいいかもしれない。私は父の店などの関係で商業ギルドに登録されているので、冒険者としてはずーっと仮免である。商業ギルドで狩りの獲物は売買できるし、冒険者として一線で活躍するにはか弱すぎるので、一年更新の仮免で鍛錬場を使わしてもらうだけで充分だ。冒険者ギルドに更新料を払ってさえいれば、居合わせた冒険者と手合わせできるという特権を行使できる。大規模キャラバンを組んで護衛を雇うレベルにない個人商店では冒険者仮免はわりと普通に行われている。商人は自衛のために身体を鍛えられ、冒険者ギルドは更新料をゲットでき、冒険者は護衛の依頼を指定で受けられたり、引退後のコネ作りなどウィンウィンウィンの良好なシステムである。もちろん、リース商会などの大手でも冒険者仮免を持つ者が在籍していることがある。従姉と結婚してリース商会に入った義従兄も冒険者ギルドから商業ギルドに移動して、冒険者仮免に変更したらしいし。

ちなみに、弟は農業ギルドがメインの冒険者仮免であるが、冒険者ギルドからのお誘いも多々あるらしい。もちろん、騎士団からの誘いもあるが、兄がカスレで騎士団副団長をしている関係で断っている。ウチでは基本的に兄弟が別の職業に就くのが習わしだ。リスク分散らしい。決して、各分野で情報や権限を掌握しようというわけではない。ハズだ。



『あっ。マリちゃんだ!ヤッホー』


空耳が聞こえた。

手を振りながら走り寄ってくる黒髪の男性が見える気がするけど、気のせいだろう。


何も見えない。何も聞こえない。


『マリちゃんもタンポポ採り?試作してたら、また根っこが無くなっちゃって…』


見ざる言わざる聞かざる…


『コーヒーっぽくなってきたから、今度淹れるね』

「いらん」

うっかり返事をしてしまった。

ある意味、勇者のスゴいのは勢いで人を巻き込むところだろう。

自分のペースで生きたい私は他人に巻き込まれるのが一番嫌いだ。


『いっぱい掘るから遠慮しなくていいよぉ』

「誰が遠慮なんてするか」

笑顔で地面を掘り出した勇者に、魔物の解体の手を止めないで返した。棒は元の場所に置いて愛用の短剣を使用中。投げナイフじゃなくて、普通によく切れる方。素材として売るから、解体は美しくしなきゃね。


視界の端に映ったものが気になって勇者の方を見た。掘る道具間違ってないか。


…ソレ、勇者の剣だよな。


丈夫で長持ち(はぁと)とか言わないよな。切れ味よくて硬くて粘り気があって──糸を引く感じじゃなくて、折れにくいって意味でね──とは聞くけど、穴掘りにも使えるのか、便利だな。硬いと粘り気があるは材料として正反対な性質だ。それが同時に成り立つとは勇者の剣ってハイスペックだな。スコップ最強だと思ってたが、認識を改めたわ。

とりあえず、勇者が穴掘りに集中してる間に帰ろうっと。

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