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『マリちゃん、マリちゃん』

今日も勇者はやって来る。十年一日のごとく同じことを繰り返しているが、勇者と出会ったのはほんの一年ほど前である。

凱旋パレードから一年。勇者も私も一才成長した。よかった。開始から何十年経とうとも十年一日のごとくな上に歳も取らないなんて漫画のようなことになったら泣くに泣けない。

来年になると妹も無事に卒業する。妹は学業的には既に学ぶことはない。妹が今学んでいるのは友達との付き合い方だ。年齢に応じた環境で健全なる精神の成長をって、ねじくれ曲がった私が言うのも不思議だ。私の成長を阻害しまくったのは兄だ。友達と遊んで協調性を学ぶ時に囲いこまれていた。だから、未だに友達との距離感が掴めない。そもそも友達はほとんどいない。

転生したんだから、そのくらい何とかなると思ったヤツ、前に出て歯を食いしばれ。前世と現世の私は違う。知識しか受け継いでないんだから無理だ。

えっ。前世には友達が居たのかって疑問に思う?



お前なんて嫌いだ。



仕事仲間ならいっぱいいた。そこに間違いはない。信頼関係に結ばれていたし、きっと友達だろう。

そもそも友達の定義とはなんだ。信頼関係にあって、いざという時に背中を預けられて血縁関係にないものではないんだろうか。ああ、上下関係もないことだな。上司や部下が信頼できないなら困るし、いや、そういうヤツも居る場合はあるが…



『マリちゃん。お腹空いた。スープおごって』

「ヤダ」

今日のお昼は食べる予定がない。庭の手入れをするだけだ。

「だいたい、従姉さんに料理人紹介してもらって雇ったんだろ」

『マリちゃんのと味付けがあんまり変わらないから、マリちゃんのご飯食べようと思って』

「首にしたんか?」

稼いでいるんだから王都の雇用問題に貢献しろ。

『してない。僕が食べない時は魔物にやられてケガして働けなくなった騎士団の家族に配られるようにしたから、家で食べると怒られる』

「……」

『勇者元気で留守がいいってやつなのかな?』

自嘲するように勇者が笑った。


「慈善事業というやつだな」

『そうとも言うかな』

「ただ、だからと言って、私がお前にご飯を作る義理はない」

勇者が勇者たる義務を果たすのは問題ない。だが、あくまで私は一般人だ。

『だから食材は持ち込んでるし』

「何を言う。私の技術料とかやる気とかの問題だ」

『持ち込んだ食材のほとんどはマリちゃん家で食べてるじゃん』

「私が作ってんだから当たり前だ」

家族に愛情のこもった食事だ。

あ…最近、母の食堂で食べてないな。明日の夕食は外食にしよう。そうすると、明日は肉を多目に入れてもらうか。ウサギか猪か、弟がガッツリ食べられるように…オーナー権限でこっそり予約だ。

肉が入ると冒険者もガッツリ食べるだろうから、いっそのことギルドに依頼かけるかな。明日は肉祭りで満席にするか。

久しぶりにオーナーの気まぐれ炸裂。あれやると酒が出るからそちらの仕入れも手配して…




『マリちゃん。お腹空いた』

「うん。今日は庭の手入れだな」

勇者の発言を聞き流して今日の自分の予定を確認した。庭にタンポポが生えてしまったので、ハーブ栽培に影響する前に排除する。ただ、問題は…

「…タンポポの根っこか」

『コーヒーの代わりになるんだよね』

「じゃ、抜いて。私は葉っぱしか要らない」

『葉っぱはどうするの?』

「食べる」

他のハーブがなければ育ててもいいかもしれない。根っこの始末が面倒じゃなければな。


『僕も食べる』

勇者はキラキラの笑顔を見せた。葉っぱを渡せばいいのか?

まぁ、そこは後で考えよう。


『とりあえず、タンポポを根こそぎ抜け』

勇者にスコップを渡した。木製のスコップの先にだけ金属を付けたものだ。全部木製だと弱いけど、お値段の関係で鉄はそんなに使えなかった。

もちろん、護身の道具には遠慮なくお金をつぎ込んでいる。つまり、大きなスコップはかなりの力作…を作ってもらった。殴る掘る防御のできる立派な護身具である。しかも、庭の隅に置いておいても違和感がない。


えーと、それじゃなくて、勇者に渡したのは移植ゴテ。片手サイズのかわいいやつ。これで掘ってもらおう。1mを超えることもあるというタンポポの根を!


「根っこは端まで切るな」

勇者は力強く頷いて笑った。


『コーヒーにするんだから、残しちゃもったいないよね』


そうだった。コイツは食べ物のためには努力を惜しまないんだった。で、根っこをどうやったらコーヒーにできるんだろうか。

そんな疑問を感じながらも、勇者に庭の整備を手伝わせたのだった。

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