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異世界に転生して23年。前世の記憶が少しあるけど、チート無しの平凡な町娘。1年ほど前に召喚勇者と知り合った。同じ日本出身と意気投合したわけじゃなく邪険に扱っていたのに付きまとわれている。なんでストーカー対策法がないんだと思ってたりしたけど、極めて平凡な生活のハズ。



なのに今日、在庫を取りに店から戻ってきた父が変なことを言い出した。



『先祖は召喚じゃなくて、この国の生まれの勇者だ』


父の言葉が耳をすり抜ける…わけないだろ。


ちょっと待て。マジに先祖は勇者か。赤牛(あに)の異常な強さとか体力とか脳筋具合(笑)とか思い当たるフシが無いわけでもない。先祖に3日も寝ないでバトれるのが居たとか、普通の人間からかけ離れている話も聞いた。事実、この間、王都に駆けつけた牛の速度は早馬並み…牛が馬…なに言ってるんだがわかんなくなりそうだ。不眠不休で疲れないのかと不思議だったけど、勇者補正?いや、当代勇者は食欲魔人で、兄は一応ただの人。


まぁ、兄がちょっとばかり人並み外れてるのは知ってた。小さいころ私が転んだら、なぜか直後に学校から駆けつけたり変なことはいっぱいあったし。あれって《デーデ》に私を見張らせてたって後から聞いて激怒したっけ。プライバシーの侵害だ。結局、兄が自分で見張るようになって追い出した。


あ、《デーデ》!

不思議な鳥。ウチの家族の言うことしか聞かない猛禽類より強い伝書鳩もどき。もしかして、勇者の鳥?

そういえば、勇者伝で聞いたことあるわ。勇者が使役してた魔力のある鳥。勇者伝では確かどでかい青い鳥だったハズだけど、《デーデ》ったら見かけはまるっきり鳩だよ。サイズはちょっと大きめだけどね。カラスサイズ?丸々太ると美味しそうで、いやさすがに《デーデ》は食べない。普通の鳩は狩りがうまくいけばおいしく頂く。…話が逸れた。


《デーデ》だ。あれってフェイク入ってるのかな。勇者の子孫ってバレないために……いや、勇者そのものが市井に紛れこむためかも。先祖だって、仕事(魔王退治)が終わったら普通の生活がしたいよね。一度、勇者になると色々めんどくさいのはアホを見てるとよくわかる。



『マリちゃんが勇者の子孫で、僕が今の勇者ってことは…二人の出会いは運命だね』


すっかり存在を忘れていた(当代)勇者が目をキラキラと輝かせた。手は祈るように結ばれている。乙女か。


「それは飛躍しすぎだ」


なんかフラグだとイケないからへし折っておこう。ついでに踏んづけて、いや、そんな旗など踏みにじってめちゃくちゃにすべきだ。

当代勇者と何代か前の勇者の子孫が結ばれて、なんて小説じゃないんだから絶対ごめんだ。年齢が近いとか日本という共通項があるとか、小説だったら偶然の出会いじゃなくて必然とか絶対に認めない。


『召喚ができなくなった時のために勇者の血筋を残しておきたい、が先祖の遺言だ』

「勇者の?」

父の言葉に違和感を覚えて追及した。


『いや、勇者と結婚した賢者の遺言』

やっぱり、勇者は脳筋だったか。


『今まで勇者は全員男性だよね。つまり女性の賢者様?』

『そう。《宵闇の賢者》と呼ばれた…見かけは平凡な女性らしい』

勇者、お前本気で大丈夫か。質問するまでもなく、男同士なら子孫ができないだろう。異性に決まってる。いくら異世界と言えど、同性同士で子供ができるほどぶっ飛んでない。


「勇者のあだ名は?」

『《夕焼け》。燃える赤毛が特徴』

だよね。そうだと思ったよ。多分、先祖の血が色濃く出ると髪にも出るんだろう。兄弟の髪色からの推測が当たってたか。髪の赤みが強いほど勇者(せんぞ)の血が強いのか。ってか、《宵闇の賢者》に比べて《夕焼けの勇者》ってダサくない?

勇者パーティーの中の勇者の地位が知れるわ。賢者の方が役に立ったのね。ただただ最前線で暴れるだけの勇者とパーティーを指揮する賢者が目に浮かぶ。

その二人が結ばれたなら多分、きっと、絶対かかあ天下。脳筋勇者の手綱を引いて、裏から操る腹黒妻か。



あれ?

賢者って今の私のあだ名もか。スゲーやな予感。

脳筋な勇者と賢者な手弱女の組み合わせじゃ一緒じゃん。

そういえば、《宵闇の賢者》ってもしかして黒髪の乙女?赤毛の勇者が《夕焼け》なら、宵闇は黒髪だよね。

日本人と言わないまでもアジア系とか。いや、この国にも黒髪はいるけどね。黒髪って言ったって日本人的な凹凸の少ない顔じゃなくて、ガッツリ西洋風な顔立ち。わりとウェーブがかかってるし、日本人とは明らかに違う。《宵闇の賢者》が日本人だったかどうかは実際のとこどうでもいいや。


『やっぱり、僕とマリちゃんは結ばれる運命なんだよ』


「帰れ!食欲魔人」

『魔神じゃなくて勇者だよ』

「ウザい。帰れ。二度と来るな」

恐ろしい想像を掻き消すように怒鳴った。

『マリちゃん。お腹空いたら我慢しないで食べたらいいと思うよ。怒りっぽくなるし』

勇者はのほほんととんちんかんに返してきた。

マジウザい。


私と勇者が結ばれる運命など、認めない。そんなもんあってたまるか。

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