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『マリアンヌ。お久しぶり』
従姉が来た。
東の渓谷から帰る途中ですれ違って以来だから、何ヶ月ぶりかな。
「従姉さん。お帰りなさい」
話す必要があることは、小豆の報告と………なんかお礼を言わなきゃいけない気がするんだけど、何だろ。ヤバい。また何か忘れたらしい。
まぁ、いいや。思い出すまで放置しとこ。必要なら向こうから言ってくるハズ。メモしてもメモしたこと自体忘れる私には自律型外部メモリ(と書いて他人と読む)が必要なのかもしれない。理論とかは忘れにくいんだけど、人名だの、顔だの、数値だの、用件だの、ちょっとした出来事なんかはすっぽーんと抜ける。抜けまくる。
簡単に言うと理解したことは忘れにくいんだけど、興味のないことは覚えらんない。これが前世からってんだから我ながら始末に悪い。だが、改善する気もない。
で、従姉さんは何の用で来たんだ。大荷物で。
テーブルの周りに食材と見られるいくつかの袋をドスンドスンと並べるとリース商会のスタッフと見られる人は一礼して去っていった。
「従姉さん。これ何?」
ウチのダイニングが異常に狭くなったんだけど。ってか、人足が帰ったってことはコレ置いていく気なの?
『お土産♪』
「要らない」
従姉の笑顔に即答。 イヤな予感しかしないわ。
『輸入サンプルよ。ものとして使えるかどうかの他に勇者様に恩が売れるかどうか知りたくて』
恩を高くふっかける気満々じゃん。一応、勇者様って様付けしてるけど、ちっとも敬う気ないっしょ。
「つまり、これを鑑定しろと?」
『うん。勇者様と一番話をしていて、勇者様の欲しがるものをわかってるのはマリアンヌだと思うの』
確かに。
召喚されてからしばらく王宮にいたらしいけど、対応した人たちは自分の価値観の押し売りしてて勇者の話を聞かなかったらしい。第3の騎士団長と会う頃には、立派に後ろ向きな勇者ができあがってたらしい。特に食生活とか食生活とか食生活に不満があったらしいしな。大事なことだから3回言ってみた。
食生活の不満を合計何百時間聞かされたことか……。特にカレーと米の話は長かった。うんざりしたよ。材料無いんだし、すっぱり忘れりゃいいのにね。
考えごとをしている間に、従姉が袋から少しずつ食材をテーブルの上に並べていた。
さすがに干物がそのまま泳いでいるなんて思うほどアホじゃないけど、食材に詳しくないんだよね。稲は学校で育てたことがあったから知ってた。でも、スーパーで売ってる形しか知らないものも多い。勇者よりは少しはマシくらいの食材の知識しかないし、料理法なんて『煮る』『焼く』『茹でる』『蒸す』とかは知ってても個別の料理のレシピとか知らんぞ。調味料とかも足りない状況でどうしろと。
テーブルに広げられた多種多様な食材を前に途方に暮れた。
それもこれも、あの勇者のせいだ!疫病神め。二度と来るな!




