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宰相の憂鬱 1

他者視点が少し続きます。

この国で宰相をし始めて何年経っただろうか。その間に色々な苦労があった。魔王の出現もその一つだった。勇者を召喚して討伐されるまであちこちの被害の状況把握やそんな大事の最中のアホ貴族の勢力争いも大変だった。

だが、そんな苦労が一体どうした。



勇者の恋人の妹に第3王女がケガをさせたという連絡はお供につけた騎士から直ぐに入った。状況も子細に聞いた。勇者との関係性で多少の考慮は必要だが大したことはないと判断した。


最初の問題は翌日だった。

冒険者ギルドから依頼を受ける者が足りないので、条件を変更して欲しいと連絡が来た。何年も同じ条件でやっていて今更どうしたんだと思ったが、普通に依頼を延長しただけにした。というより日常的な依頼は文官がやっており、なぜわざわざ自分宛てに来るのかが不明だった。


更に翌日、朝食から卵が消えた。毎日、産みたてを納入されていたが、あんまり産まれない日もある。そういう日でも少しは入っていたが、その日はゼロだ。契約では注文から3日が納期で、無ければ連絡の上、期日は伸ばせる。量もムリのないものにできる。鶏が産まないものは産まないのだから仕方がない。だが、3日で一個とはどういうことだ。

他の食料品も同様だ。いつもより遅くて量もギリギリしか納入されない。冬だからある程度は理解できる。しかし、これは異常事態だ。しかしだ、業を煮やして市場に買いに行かせると、その時に限ってどの店も閉まっているのはなぜだ。まるで王宮のものが使いに出るのを誰かに見張られているようだ。

戦時下でもないのに、王都で兵糧責めにあっているようだった。


いや、食料品だけではない。どれもこれも最低限の量しか入って来ない。そして、何時に使いに出しても店舗は休みなのだ。

市内に放たれている間者によると、朝は開いていた店が使いを出した途端に長い昼休みを取り、諦めて王宮に戻った頃に再び開いているらしい。かと言って、間者が直送買おうとすると直前で売り切れる。

これは一体どうなっているのだろう。もし、間者が自分の手の者だとバレているのだとするととんでもない話だ。



冒険者ギルドでの依頼はまだ引き受け手が現れない。


そして、次は鍛冶だ。依頼を出そうとしたら、鍛冶ギルドの慰安旅行だと言って誰も居ない。さらに、木工品もだ。加えて食器の補充ができなくなった。


もはや何が起きているかわからなかった。

そうこうしている間に自分の屋敷の使用人から食料品の備蓄が切れそうだと青い顔で告げられた。詳しく聞いてみると王宮と同じく正当な理由で納品がストップしていた。買い物もままならない。本当に最低限には入ってくるのだ。しかし、食事が段々と少なくなっていくのだ。空腹感に悩まされるが、飢えて死ぬには遠い。恐ろしいほど絶妙なコントロールがなされているようだ。


次は騎士団だ。独自に契約している調味料についてやっぱり正当と思われる状況で納入されなくなった。問題は騎士の士気に関わる調味料だったことだ。そして、その仕入れ先がリース商会だと知った時に頭の中で一本の線が繋がった。


まさか、これは、例の件に対する…………


慌てて当日 第3王女に同行した騎士を呼び出した。

そして、確認してわかったこと……ケガをさせたことに対して一切の謝罪をしていないかも…。

騎士も謝罪の必要を感じなかった為、よく覚えてないという事実だった。

こうなったら、直接 確認しなければならない。


「じい。何の用?」

私は王子王女の教育係の1人だった。主に歴史と国際事情だ。それで未だに第3王女から「じい」と呼ばれている。

間者に調べさせていた王女の街でのふるまいから言って、情操教育を他に委ねたのは間違いだったのかもしれない。しかし、宰相としての仕事をやりくりして空き時間をひねり出すのは結構大変だったのだ。王族としての最低限の知識を身に付け下げのを優先するのはやむを得ないと思う。第3王女なら基本的に政略結婚によって他国へ嫁ぐか、臣下への降嫁が普通だ。だが、こうなるんだったらむしろ、王族の心得を自分がやって歴史など学者に任せれば…後悔先に立たず。


起きてしまったことは仕方ない。とにかく、この未曾有の事態を早急に解決しなければならない。それが己に課せられた過去の清算なのだ。教育係の1人としての失敗を償わなければならない。それがいかに困難であろうと。

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