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閉じこもっている。こんなに家に閉じこもっているのは、勇者にパレードで声を掛けられて以来かもしれない。

玄関は常時かんぬきが落とされ、出入りには人物確認が必要。って、表向きはなってんだけど、隣んちに地下通路で行き来できるんだよね。たまに変装して出掛けてる。赤い髪を隠せば、意外とわからないものだ。平凡バンザイ。

ちなみに隣んちは母の勤める食堂のオーナーの持ち物………つまりは、私のだ。

以前、家族にも内緒のハズの地下通路でバッタリと父に会ったことがある。その時は普通に二人して挨拶を交わしてすれ違った。そのことについて言及したことはお互いにない。


何だかんだ言って来客はある。第2と第3の騎士団の誰かとか神官とか勇者とか勇者とか勇者とか…………勇者アイツ何だかんだ言って毎日来てる。妹へのお見舞いと称して、豆だの干し肉だのベーコンだのを持ってくる。はっきり言おう。

お見舞いだけ、業者にでも届けさせてくれたらいい。いや、それが希望なんだけどな。弟が喜ぶし、勇者要らねえ。

とりあえず、井戸で水汲んで、白湯を飲んで帰ってる。勿論、水瓶いっぱいになるまで汲んでもらう。楽だ。

『お忍びの貴族(ぶっちゃけ、王女)がまた現れて暴力を振るわないとも限らない』という言い訳の下に面倒な仕事を他人にしてもらうのは気分がいい。

それでは身体がなまるので、中庭で薪割りをしているが。いっそのこと、中庭に井戸を掘るという暇つぶしも考えられるなぁと思い、王都での井戸掘りに必要な申請があるかどうか調べなきゃと頭にメモする。これを忘れなきゃいいんだけど、片っ端から忘れていく。残ったものが私にとって本当に重要なこと。そう思わないとやっていけないとかいう本音は置いといて、細かいことはどうでもいいや。こっちも本音か。

忘れて本当に困ることは誰かがフォローしてくれる。一つ二つ忘れてもそれだけで人生が詰むことはほとんどない。世の中なんとかなるもんだ。何ともならないこと?いや、必要なら何とかすんだよ、どんな手段を使っても。

妹との幸せな生活のために、リース商会で稼いだお金を投じて裏から手を回して食堂を立ち上げ、母を勤めに出したのは結構大変だった。ついでにうっかり軌道に載せて、母が忙しくなった時の朝の稽古で父の攻撃は凄まじかった。実の娘に何すんねん。年下の兄弟に発する愛情の異常なまでの深さは子供には発しにくいのか、配偶者の方が上なのか……検証しても意味ないし、無視。


『マリちゃん、毎日毎日スープで飽きない?』

「なぜ?冬なんだし、身体温まるからいいじゃん?」

『家に閉じこもってヒマなら、白パンを開発しようよ』

「ヤダ、めんどい」

『ふわふわの白パンでチーズトーストとかシナモントーストとかフレンチトーストとか……ああ、ホットケーキが食べたく…』

「ならんな」

勇者の言葉に被せて強制終了させた。

『なんで?女の子はフレンチトーストやホットケーキが好きなんだよ』

「だから、その根拠出せって何回言わせるんだ」

『ブランちゃんも喜ぶよ』

「…………何が?」

『ホットケーキ』

「……」

『メープルシロップたっぷりのホットケーキっ!』

「……いや、それはムリ」

『なんで?』

「メープルが……蜂蜜ならできるけど……小麦粉、牛乳の代わりにヤギ乳、卵、砂糖の代わりに蜂蜜………うーん、費用がかかりすぎる。…誕生日とか…」

妹が喜ぶ顔を想像してしまったので、つい勇者を放置してマジに検討始めてしまった。


3分ほど考えたところで、熱い視線に気がついた。

「できたとしても、お前に食わす分はない」

『えっ、なんで?食べたい』

「お前のせいで妹がケガをしたんだぞ!」

『僕は何もしてないし』

「勇者、お前が王女と結婚してれば問題なかったんだ」

『好きじゃないんだもん』

「勇者なんだから仕方ないじゃん」

『褒美選べるって言われたもん』

「それは建て前で、王女を選ぶもんなんだよ」

『そんなのは知らないよ』

「空気読め」

『それじゃ、お腹膨れないもん』

「ウチに来ても白湯だけで帰れ」

『ホットケーキ食べる』

「作らないから来るな」

『明日は小麦粉と卵と牛乳持って来るからホットケーキね!』

「砂糖と蜂蜜とバターも持って来い」

『小麦粉と卵と牛乳と砂糖と蜂蜜とバターだね』

「ベーコンと干し肉もな」

『ホットケーキには要らなくない?』

「弟が好きなんだよ」

『わかった。また、明日』

来るなよ。業者に届けさせろよな。それにホットケーキ作るとは言ってないからな。

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