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毎日のように勇者が来る。たまに騎士団、それも団長が来る。最近は、神官も時々姿を見せるようになった。
これで王女が来たら私の知る勇者御一行様が全員訪れたことになる。なんて考えたのはやっぱりフラグだった。
ウチに不似合いなほどに高級そうな、でもきっとお忍び用の粗末なワンピースを着たキランキランした乙女が目の前にいる。ついでにお忍び用に変装したと思われる騎士3人、それに侍女かそんなの。いや、侍女のふりをしている女性の騎士だな。チラッと見えた手に剣だこあったし。さすがに王女。お忍び外出でこの人数。興味ないし、パレードとかでも遠目だし、ちょっと自信無いけど、王女でいいんだよね。
しかしコレ、魔王倒す時の旅はどうしたんだろ。話には出なかったけど、世話係とかこの女性騎士とか付いてたんじゃないかな。あくまでお付きの者なら勇者パーティーに数えられるハズもないしね。凱旋パレードにも当然出ない。いや、そこでも護衛として付いてたのかな。
「どちら様でしょう?」
お忍びだから普通に対応してもいいとは思うんだけど、王族とか貴族とかには無礼だとかキレるヤツがいるから厄介だ。お忍びならお忍びで一般市民の役柄で通せって思う。まぁ、護衛連れてるし、全員の変装が浮き世離れしてるところから見ても、庶民の生活なんて正確にはわかってないよね。
第1騎士団は全員貴族だろ。庶民の服のつもりで着ているそれは生地からして違う。ウォッシュ加工とかしたらまた違うんだろうけども、どれも新品同様のピッカピカ。1人くらいならそんなに目立たないが、並ぶと異様だ。
騎士たちは剣をはいてるしね。冒険者にも剣を持ち歩いているのがいるが、立派過ぎるんだよね。貴族の矜持なのか、物知らずかどっちか。少なくとも変装じゃなくて仮装レベルだ。
コレ知らんぷりして庶民として接すればいいのか、王侯貴族として敬ってみるのがいいのか悩ましいよな。
『端的に言わせてもらうわ。勇者様と別れなさい』
うんとさ、私は一応名前を聞いたんだけど。誰だかわからんヤツの用件など聞く耳はない。
「失礼ですが、あなたはどなた様でしょうか?」
慇懃無礼に聞き直した。
『私が誰であろうと貴女には関係ないわ。貴女は勇者様と別れればいいだけよ』
本人は埒があかないので、護衛の方を見るが、主人の許可無く発言する者は居なかった。
ため息をついてからしっかりと相手の顔を見る。他人んちに許可無くズカズカ入ってきて名乗らないような無礼なヤツには無礼返し。
王族の顔を直接見ちゃいけないのは知っているが、相手がそう言わないから知らん。
「ムリだな」
キッパリ言った。相手の顔が真っ赤になった。
「理由1、知らん人の言うことは聞けない。
理由2、勇者とは元々付き合ってないから別れることもできない。
理由3、他人んちに集団で勝手に入ってきて命令口調で話すヤツは嫌いだ」
『付き合ってないなんて嘘吐き!勇者様は毎日訪れてるし、一緒に旅行したの知ってるのよ』
そこに反応か。一応調べてるらしいが、調査が甘すぎる。いや、調査結果を勝手に判断してるのか。居るよな、最初に結論ありきなヤツ。
『お姉ちゃん、ただいま。お客様?』
おっと、修羅場に妹ってタイミング悪っ。
「おかえりー。なんか知らん人が押し掛けて来ただけだよ」
『うわっ、キレイな服。スゴい』
妹は返事を聞かないで王女(仮)のワンピースに手を伸ばした。
『触らないで!庶民のくせに』
妹の手を扇子で払いのけたのが目に入った瞬間、勇者にいつも浴びせている言葉が口をついて出た。
「帰れ!二度と来るな!」




