168
『姉貴、おはよー。スープちょうだい』
神官が席に着く前に、弟がふらふら歩いてきた。
『パンは要らない。できればスープはちょっと薄めて』
二日酔いの時に蜆の味噌汁を飲む心境か。ってか、むしろアルコール排泄のための水分補給だな。
「神官様も一緒でいいですか?」
無言で頷く神官に目で弟の隣に椅子に座るように促した。
『じゃ、僕はマリちゃんの隣!』
「帰れ」
自分の席の隣の椅子を引いて弟の後ろに置いた。
現在は5人家族だが、アイツがカスレに行く前は6人だった。それに吟遊詩人の分を入れて7人、プラス予備が食卓を囲める。長辺に3人ずつ、短辺にお誕生日席が用意できる。
普段は6脚がテーブルに並び、残り2脚は壁の花になっている。昨夜は7人だったが、既に片付けられている。
家族の席は何となく決まっていて、家族が揃う夕食では兄が座っていた席が暗黙の内に勇者の席になっている。つまりは私の隣だ。兄がその位置をキープしないハズがない。顔が見られる正面より何かと世話を焼ける隣で、ややこちら向きに斜めに座るのがパターンだった。そのウザさに苛々させられたっけ。
勇者が朝や昼間に来た時には正面に座ることが多い。だから、さっきまで勇者は反対側に座っていた。
「帰らないなら、とりあえずスープを運べ」
勇者に神官と弟の分を運ばせ、その間に一応パンを切り分けた。
要らないと言われても客には出さないと格好がつかない。弟も食べるかもしれないし。
一応客だし、チーズくらい出しとくか、果物はリンゴを丸ごと出しとけばいいな。などと考えながら準備して、最後にリンゴを洗って食堂に戻った。
「紛れてお前が食うな」
『だって、お腹空いたんだもん』
いい大人が『もん』って言うな。
「それは弟と神官様の分だ」
『2人とも要らないって言ったもん』
ってか、お前はあれだけ飲んで二日酔いになんないのか?
あ、勇者だからか。状態異常が続かない?
『……姉貴…頭に響くから静かにして…』
弟が青い顔をして頭を抱え込んだ。
ええい。それもこれも勇者が悪い。
帰れ!二度と来るな!




