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冷え込みの強くなってきた朝になっても帰宅しなかったので、様子を見に行ったらまだバトっていた。

満身創痍で楽しそうな二人に呆れかえって、勇者に終わったら弟を回収してもらうように頼んだ。さすがに付き合いきれない。夕闇に紛れて勇者が二人を抱えて戻ってきた。いや、弟だけでいいんだけど。


ウチにはなぜか客間がある。吟遊詩人な伯父が泊まりに来るからと言っても来客のためのスペースがある庶民の家は珍しい。家族を合わせるとそこそこの稼ぎがあるから王都の外れであれば中庭や客間のある家を維持することは可能だ。でも、表向きは台所用品店を営む父、食堂に勤める母、叔父の農業を手伝ってる弟で、収支バランスが変だろって思うが、ご近所もそんな感じの一角なんで、誰も気に留めていない。多分、ヤバい仕事をしている家が集まってるんだと思うが、ウチもそんな感じだし、何より朝練をしていても苦情が来ない環境は悪くない。


勇者がうろついてても噂話で盛り上がるくらいで、大きなトラブルが起きないのも………噂話も勘弁して欲しい。アイツが食事や日本の話をしたいから押し掛けているだけで、勇者と噂になるような関係じゃない。いや、噂になっている、交際してるだの結婚間近だのといった関係じゃないというのが正確か。


来客がある時には近づかないという近所の常識は、多分、他では非常識。下町ならではの他人の家にズカズカ入り込んで、なんてのはこの近所には限ってない。

そして訪問者以外の余所者には厳しい。最近、多いのは騎士団狙いの肉食系女子だが、わりと広い裕福な家が多いと思って窃盗の下見なんてのも来る。そういうヤツがこの界隈から出て行ったところを見ないというのがこの辺りの怪談だったりする。


えーと、とにかく、近所は噂話は好きだけど、人んちの中での会話は聞かないのが美徳とされ………むしろ聞くと命にかかわ……、そんなこんなのご近所さんなので、ケガ人の一人や二人気にしないのがいいところ。


話が大幅に逸れていたらしい。とにかく、客間があるのでケガをしている神官も一晩泊まることになった。客が泊まるといったら飲み会だ。異論は認めない。


ちなみに食事は珍しく〈カレーではない何か〉である。辛いのが苦手な私がメニューの決定権を握っているので、基本的には出ない。だから弟は時々、母の食堂で食べているらしい。

今日はお疲れ様ということで…


『姉貴。旨いけど、痛い』

弟が傷だらけの顔をしかめた。

だろうな。口の中も切っているに違いない。


『マリちゃんの愛情いっぱいで最高だよ』

弟への愛で、お前への愛じゃない。

『初めて食べました。王都を離れて修行している間にこんな…』

神官は顔には傷が無いように見える。しかし、表情からはやっぱり口の中には傷がありそうな感じがする。そういえば、武闘派で服の破れ目からは古傷が見えるのに、顔に傷一つ見当たらないのは不思議だ。まぁ、いいや。コイツに興味ないし。


私の好みは穏やかで頭のいい、気配りタイプだ。顔とか体格とかはあまり興味がない。対象外は脳筋と戦闘狂。簡単に言うと無いものねだりだ。身近で見たことはない。さらに言うと、見つからなくても困らない。


『マリちゃんの作るご飯が一番!』

「豆のスープもあるぞ」

自分の分は取り分けてある。これにさらに干し肉とスパイスを入れたのが皆が食べているものだ。

『要らない』

「お前が食べているのは、豆のスープがベースなんだからおんなじだ」

『豆臭いからヤダ』

「豆に失礼だろ」

『マリちゃんはなんでそんなに豆にこだわるんだよ』

「豆が好きだから」

『豆より肉だろ』

「肉より豆だろ」


言い合っていたら、神官が感心したようにつぶやいた。

『何と言うか、びっくりだな』

『な、仲いいだろ?それなのに姉貴は付き合ってないって言うんだぜ』

『いや、それより、勇者と会話が通じてる』

「そこかっ」

『我々ですら、なかなか会話がかみ合わないのに』

『お姉ちゃんは勇者様の調教師だから。勇者様はお姉ちゃんの言うことは何でも聞くよ』


あれ?なんか妹の教育間違ったかな。

それもこれも、勇者が悪い。


「食事に不満があるなら、帰れ!二度と来るな!」

『ごめんなさい。もう言いません。豆のスープも美味しく頂きます』

いや、帰れ。

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