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勇者は例の物理法則完全無視なバッグから、東の渓谷ツアーのお土産を出した。
相変わらず出るわ出るわ…絶対おかしいだろ。まぁ、いいや。冬の間の弟の干し肉が準備できたってことで。戻してスープに入れたら野菜もいっぱい食べてくれるだろう。あ、野菜も買わなきゃ。ビタミン不足になんないようにするには……漬け物か?私 嫌いなんだよね。とりあえず、ピクルスでも作るか。
いや、忘れかけてたが、もやしの生産だろ。叔母から貰った色んな豆で冬中もやしで暖房。エコで栄養補給。
『マリちゃん。冬って言ったら鍋だよね』
ああ、弟にクマ鍋作るか。
妹には栗とクルミの蜂蜜漬けとか…クルミはビタミンBとかEとか含まれてるんだっけ?えーと、『4つだけ(DAKE)は脂溶性』……うーん、ビタミンEは脂溶性か、まあ、クルミって油多いし、食べ過ぎないように気をつけないと。少しくらい太っても妹は可愛いけど、やっぱり今が一番可愛いし……成長期だから減らし過ぎてもいけないし、難しいな。
ん?
「クッキーがまだあるハズだ」
勇者が並べたものを再確認して指摘した。
勇者の視線が斜め上を向いた。普段、ウザいほど雄弁な勇者がなかなか口を開かない。雄弁と言っても内容が無いのが勇者の特徴だ。
「妹のために焼いたクッキーを持ってもらってたよね」
追求の手は緩めない。干し肉の類は充分な量がある。栗の蜂蜜漬けもある。無いのはドングリクッキーだけだ。
『…だって、おいしかったんだもん』
だから、25才男性が『もん』は止めろって。お前それなりに身長あるし、可愛ぶってもキモいだけだっつぅの。
「最後、妹の分メインで焼いたよね。あそこのかまどに慣れてきて絶妙な焼き加減でできた最高傑作!」
『程よく甘いお菓子が懐かしかったんだ。それがマリちゃんが焼いたクッキーだと思うと余計に止められなく…』
「返せ!妹への愛を込めて持てる力を全て注ぎ込んで焼いたあの力作を!」
薪で焼くのどんだけ大変だと思うんだ。火力調節面倒くさいんだ。魔法が使えるヤツなら簡単かもしれないが、私は苦手だ。
『でも、もう食べちゃったもん』
だから、『もん』は止めろ。
「…わかった。とりあえず、蜂蜜2壺、砂糖2袋、小麦2袋をお詫びで持って来い」
『蜂蜜、砂糖、小麦だね』
「それから、ヤギ乳だと脂肪が少ないから牛乳」
『牛乳と他には?』
「食用油……そうだな、オリーブオイルで」
手の出しにくい高級品ばっかだ。牛乳でバターを作るか、そのまま牛乳として使用するか悩むな。
『じゃ、買いに行って来ます』
そうだ。今の間たまにはちゃんと戸締まりをしておこう。で、ゆっくり洗濯だ。
つまり、あれだ。
勇者、二度と来るな!




