表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/235

159

王都に着いた。

途中の森の中でまたクマに出会ったり、勇者が力任せにクロスボウを使って壊したり(負荷掛けすぎで壊れるのは仕様だが、それを知らない勇者に文句を言ったのはいうまでもない)、こんなに乗り心地の悪い馬車に二度と乗るかと騎士団長に一言恨めしく愚痴ったとか……まあ、色々あったような気がする。


キノコは未だに区別つかないし、日持ちしないから採らない。それにあの菌臭さが苦手だ。発酵が好きじゃないのも匂いに敏感だからという理由もある。何より発酵とか触媒とか真面目にやろうとすればするほどたくさんのサンプルの地道な検討がキライ。そういうのはそれが得意な人に任せればいい。


とりあえず、王都である。帰って来たのは嬉しい。問題は…この馬車が真っすぐ第3騎士団本部に向かっていることだ。第3は叔母の家に近い。つまりは王宮を挟んで反対側にある私の家からは遠い。

馬車から降ろしてくれたら歩いて帰るんだけど、止まってくれないし、私はドアと反対側に座っているので勝手に出るには向かない。それに勇者が乗ってることがバレてるらしく往来に人が出て歓迎してる声が聞こえる。


コレでも勇者は人気者である。魔王による被害は甚大なので、それを命がけで倒してくれる勇者は尊敬とか憧れとか感謝とかを集める存在である。一応はな。

最初自宅に勇者がやって来た時には、翌日の井戸端会議は凄まじかった。『勇者がおらが街にやってきた』と。

王都は王宮を中心とした大きな都市である。新宿とかと比べてはならない。新宿駅の1日の乗降客はこの国の人口に匹敵する。……多分……よく考えたらそんな情報出てないんだけど、気分の問題だ。戸籍の無い世界で正確な人口が出るわけがないし、そもそもいざという時に兵力になる分、国力を示す大事なデータであるが故に嘘や誇張が紛れ込む危険があるから、そんな情報など当てにできない。

それはともかく…一刻も早くウチに帰りたい。


勇者の人気のおかげで、往来で走る馬車から降りるわけにもいかず、ドナドナと揺られている。前回はリース商会の馬車だったので、王都の入口で騎士団と別れて真っ先に自宅に送ってもらった。騎士団の馬車だと自由が利かない。ってか、王都に入るとこで降ろしてくれたらよかったのになぁ。

思考がぐるぐる回る。妹に会えれば落ち着くのだけどなぁ。一種の禁断症状だ。父方も母方も弟妹溺愛の家系ってバカだろ。従姉みたいに弟だけでは足らず、ムリヤリ仮想妹(従妹である私)を作ってまで溺愛するとか異常だ。

よく考えたらこれはこれで生存本能の為せるわざか……父方には戦闘狂が出やすい。兄弟でバトルとかシャレにならない。弟妹溺愛によって兄弟ケンカは軽くて済むし、弟妹を守る為と言って生きて帰ってくる。少なくとも兄はそうだった。闘えば闘うほど強くなり、どんな大ケガをしようと絶対に………あれでストーカーじゃなきゃ少しはマシだったんだけど。

母方も跡目争いも無いし、ムチャな商売はしないし…あ、もしかして、母とか従姉とか強い相手に惹かれるのは守って貰うためか。知力だけでは商売はやってらんないからか…………

私の周りで強い人=勇者という図式が頭に浮かんだ。絶対ヤダ。ウザくても無碍にできない理由が遺伝子レベルで既定されたものであるハズがない!


この仮説はなかったことにした。むしろ仮説じゃなかったら泣ける。


冷静になろう。


この世界の勇者信仰は根深いものがあり、一般的には勇者は絶対の存在だ。勇者の為にできる限りの援助と感謝を捧げるのも当然である。まぁ、若者の間では若干薄らいできてるけどな。欲に目の眩んだヤツらなんて勇者を利用しようとしか考えてないけどな。

そんな意識の中で私が採れる策は………三十六計逃げるに如かず…だな、やっぱり。

だが、王都の中のだった1人の人間を探し出せる相手から逃げるのは難しい。だとしたら、取り込むしかない、のか?

いや、それがイヤだから検討してるのであって……。



『マリちゃん。眉間にしわ寄せて、なんか難しいこと考えてるの?それよりさ、晩ご飯お母さんの食堂に行かない?』

この、この性格がヤなんだ。

「だから、私の親を馴れ馴れしく呼ぶな」

ついでに自宅にも食堂にも二度と来るな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ