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ドングリ粉をさらした水を替えること数回、元々あくの少ない種類のは使えそうな感じになってきた。ドングリ粉……池にハマったわけではないので、どんぶりこではない。うーん。前世の記憶……時々、変に浮かび上がってくる。
私にとって役立つ情報だけでいいのに。
現在の技術水準だと作れないものとか…しかも、作り方も知らない…例えば電話とか…便利だとは思っても、情報として役に立たない。糸電話なら作れるが、発電設備の無い世界で電化製品の知識って、猫に小判。………あ…右手の法則で発電…いや、作れないから、作らないから、電化製品ないから……無駄知識…イヤ。
勇者にアボカドにわさび醤油でトロの味って言われた時は、唐突に出てきたのがアボガドロ数……何に使えと。字面だけ見ると似てるけどね。
いっそ全て忘れられたらいいのに、前世の知識がなければ勇者に執着されることもないハズだ。ないハズ……最近、勇者と日本の話をしないでもつきまとわれてるのは気のせいだ。
なんだかな。兄を放逐したら、次は勇者か。つきまといは迷惑だっつうの。
毎日毎日、変わり映えのしない日々。妹さえそばに居てくれさえすれば、それでいいんだけどね。
兄と似ているのは百も承知だ。所詮は同じ穴のむじな。大きな差異があるわけではない。
だからといって、私はつきまといはしないぞ。妹には普通の友情とか普通の恋愛とか……恋愛しても姉妹は姉妹だからね。そこに割り込みは禁止。いつまでも私の可愛い妹だから……を健やかに育んでもらいたいんだ。
自分が得られなかったもんだから、期待しすぎてもいけないし、さじ加減が難しい。
とりあえず、兄は近くに居ないし、このうだうだ感は勇者ですっきりさせよう。
『マリちゃん。ただいまぁ!お菓子できた?』
第一声がそれか。
「まだ。これなら乾燥させれば使えるかもね」
一番マシなのを指差した。
『乾かせばすぐにできるんだね。任せて』
勇者が張り切って、口の中でもごもごと呪文を唱えるとドングリ粉は一気に乾燥して種類ごとに分けてあった状態から一つの樽に納まった。
『『あ…』』
魔術師さんと剣士さんの声が重なった。
「…混ぜたな」
ドングリ拾いから手伝ってくれてた2人には申し訳ないが、こうなったものは戻らない。
『えっ?いけなかったの?いっぱいある方がいっぱい作れるかと思ったんだけど…』
「安心しろ。いっぱい作ってやる。残すな」
2人の焦った顔を無視して、にっこり笑った。
『うん?ありがとう。期待してる』
期待しててくれ。ほろ苦い思い出になるだろう。
ところで、どうやって水だけを蒸発させた?勇者が苦いクッキーを食べるのは結果が見えてるから、そっちが気になる。
そのやり方を教えてくれ。物理法則に従った方法でよろしく。マイクロ波で水分子を振動させたわけでもないだろ。粉が熱くなってないし……あれ?そもそも水はどこに行った?
魔法だからって何でもオッケーとか認めないからな。




