150
勇者が案内してくれたのは、渓谷の方に30分ほど行ったところの道端だった。
道からは直線距離にして3mくらい登る感じか。イガが落ちててわかったんだけど、トゲトゲがヒドくて拾えなくてとの勇者の話を聞き流しながら、足でイガを剥いて栗を拾っていった。
『……マリちゃん』
勇者がしょんぼりと肩を落としていた。
『何かちっちゃいね。不作なんかなぁ』
「品種。これはこのサイズが普通」
『えっ!そうなの?』
『むしろ丸々していい出来だと思います』
驚く勇者に対し、魔術師さんが栗を集めながら言った。
『早速、今夜にでも焼き栗にしますか?』
剣士さんは笑顔である。
「うーん。妹にお土産にしたいんで、とりあえずは蜂蜜漬けにしていい?」
『蜂蜜漬け食べてみたい』
すっかり復活してワクワクな勇者に他の2人も反対はしなかった。
こんなこともあろうかと、勇者に蜂蜜も持ってきて貰ってたんだよね。ってか、最初っから栗はお土産にする気満々だったし。
次の目標はくるみだけど、確かに焼き栗にして食べるのもいいなぁ。いっぱい採れたら焼こう。
ふと視界の隅に動くものを捉えた。
そちらに顔を向けると同時に、魔術師さんが私の手を取り結界を張った。
同時に剣士さんが抜刀して周囲を警戒し、勇者が倒すまで数秒だった。
『左手でしたね』
「うん、左だった」
勇者に向かってクマが手を上げたのは左だった。少なくとも左利きのクマは一頭いたらしい。
勇者がクマを担いで戻ってきた。何とも言えない沈黙が支配する。多分、ここにいる4人全員が左手で攻撃しようとしたクマを見たのだろう。
「…暗くなる前に帰らなきゃ。妹が待ってるし」
合わせ鏡の魔法で妹の顔が見られる時間に戻らなきゃいけないじゃんね。今日は従姉との相談もある。
『遅くなると騎士団も方々も心配しますね』
『栗もだいぶ拾えましたしね』
『だね!帰ろー』
勇者はクマをバッグにしまい……いや、だからそこから入れるのは物理的にムリ…口よりデカいものは入れるな。どうも気になってしょうがない。入口も気になるが、入る量でないことも気になる。重量も変だし、腐敗とかしないのも……微生物は入れないのか?そういえば入れているのは無生物だけだな。いや、植物は植え直せばイケるものも入るようだ。入るものの定義が気になる。
簡単に言うと物理法則を無視したと思えるあのバッグが気にくわないのだ。これを認めたら魔法で常温核融合だって、永久機関だってできることになる。いや待て。魔力がエネルギーだとしたらそれは永久機関ではないな。そもそも魔力とは何だ?




