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勇者はまだタコ焼きから戻ってない。干し貝柱を食べたので海鮮モードに入りやすくなっていたらしい。
『普通のもいいけど、みんなで楽しむならロシアンルーレットタコ焼きもいいな。ワサビ入りとかタバスコ入りとか』
誰と楽しむのかは知らんが、まぁ頑張れ。ワサビとかを探すのを。あれ他の国の文化で聞いたことないから日本原産じゃないのかな、そんな気がする。
ついでにタバスコとかソースとかかつお節とかの製造も頑張れな。私は知らん。
『とろけるチーズも候補に入れて…』
食後のお茶も飲み終わったので、そっと立ち上がった。
いつまでも続く勇者の独り言にさすがのすー君も沈黙していた。
食堂代わりにしているこの集落で一番広い部屋(全員揃ってる時は広場で食事だった)を出ようとした時、すー君から声を掛けられた。
『…勇者様…ほっといていいんすか?』
「ダメなの?」
聞き返した。離れたら静かで助かるんだけど…ダメなの?
『…ちょっと…うざ……いや、その…』
小声でも失言は失言なんだけど、本音だわな。うん、よくわかるわ。
騎士団長の方をちらっと見て、自分の使命を理解した。
「たい焼き、タコ焼き、イカ焼き。本物を使ってないのは?」
勇者に向かって問いかけた。
『たい焼きっ!』
無意識に答えられるって何なの。食欲か。
『あれ?マリちゃん、どこ行くの?』
返事をしてから私が入口まで来ていることに気づいたらしく勇者が慌てて立ち上がった。
「食後のお散歩」
ちょっとした道具を作るの材料を探しに行きたいんだ。
『一緒に行く♪』
「ヤダ」
勇者がバタバタと近づいて来るのを即座に拒否った。ウザい。しかも、今回探すのはコイツを小突く為の道具の材料だ。
『向こうに栗の木を見つけたから収穫しない?』
自分の足がぴたっと止まったのを感じた。
栗の蜂蜜漬けとか妹へのお土産に最適じゃん。
『僕と一緒ならそこまで行けると思うんだ』
勇者の言葉に騎士団長に視線をやった。騎士団長は黙って頷いた。
ウザい勇者の居ない静かな時間と妹が喜ぶ栗の蜂蜜漬け……天秤はあっさりと妹の笑顔に傾いた。
「どの辺?」
勇者に尋ねながら、ふと、こういう場合の天秤ってどんなものを想像するんだろうかと思った。
上皿天秤か、上から吊したタイプ……あれって何て言うんだ?…ガラスボックスに入った化学天秤を連想するのは極一部だろうな。見たことある人少ないだろうし。電子天秤だと傾かない…。天秤座が上皿天秤か電子天秤だと笑えるな。
この世界では吊り下げタイプだ。だが、上皿とか無いから単に天秤となっている。そうだ。帰ったら市場で干し肉とベーコンを仕入れなきゃ。出発前に買い込んだ分はもう弟に食べ尽くされたことだろう。
まあ、とりあえず栗だな。




