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勇者の干し貝柱を称える話はそれから30分続き、その間に棒に付いた汚れを洗い流し、お茶まで飲めた。
騎士団長も解体を無事終えて、剣の軽い手入れも済んで一緒にティータイムになっていた。疲れてるだろうに解体までやらしてしまって悪かったかも。でも誰も動かなかったし、私は猪を捌いたことなかったんで。今回さり気なく見学させてもらったんで次回からは自分で処理するね。
そういえば、もう一種類の方も覚えたから次回からはやってみるかな。見るのとやるのは大違いだから先生がいる間に試したいもんだ。
『今日は鍋という希望が出てたんでちょうど良かったです』
騎士団長は誰が倒したかはスルーしてくれるらしい。
『乾物ばっかだったから汁物が食べたくてさ』
いざとなればお前はその物理法則を無視したバッグにいくらでも食料を持ち運べるって気づいてないのか。それとも珍しく空気を読んで他の人に合わせているのか。まぁ、どっちでも関係ない。いや、むしろ勇者が奮起してこのミッションを早く終えてくれるのを望む。
妹へのお土産は木の実を考えている。山の恵みと言ってそれしか思いつかなかった。王都までは遠い。日持ちする土産って他に何があるんだ。
集落からちょっと外出できるようになったら、ガッツリ収穫するわ。胡桃と栗は確定で。
『あの干し貝柱アンジェリーク叔母さんかシャル姉に言えば分けて貰えるかな』
何遍も言うようだが、勇者その二人は私の親戚であってお前には無関係だ。
「父に言って仕入れとくよ」
歓声を上げて喜ぶ勇者を複雑そうな顔の騎士団長が見つめた。
もちろん、中間マージンは頂く。直接取り引きなんてさせるもんか。商機は逃さないよ。
騎士団長って事務仕事多そうだな。〈カレーではない何か〉の交渉も自分で来てたし、予算管理もしてるんだな。そういえば背中に中間管理職の悲哀を感じる。それでさらに勇者の相手とは不幸だな。魔王討伐からの付き合いか……ああ、それでさっき何事もなかったように食材調達をやっていたのか。勇者が食欲で動くことを一番知ってるのかもしれない。
魔王討伐の為にあちこち回るなら遠征だらけで地理に詳しい第3騎士団が適任だよな。第1は近衛だし、第2は王都周辺しか知らない。
聞いたら今回倒した魔物の数は勇者が3分の2、騎士団長が4分の1って感じで騎士団長は強いらしい。ちょっと待て……それって変だぞ。もし12体なら勇者が8で騎士団長が3、後の3人で1体になるじゃん。おかしくね?
『勇者様は特に強いのに対峙して頂きましたから』
いや、そっちじゃない。アイツが別格なのは承知してる。動体視力に自信があるのに動きが見えない時がある。召喚チートってスゴいなと感心するが、私の前ではソレが食べものに関して発動する残念なヤツだ。
私が問題にしてるのは、騎士団長と他の騎士の差だ。
『元々この国で一番強い騎士って最初に紹介されたけど、回ってるうちにさらに強くなったみたいだよ』
勇者が説明してくれた。




