142
渓谷の魔物討伐の第1陣が出発した。勇者、騎士団長、先行部隊から1名を入れ、他に2人を加えた合計5名だ。先行部隊は地元に駐在で地理に明るいから道案内を兼ねる。
人数少ないと思うけど、相討ちを避けるために毎日こんくらいの人数の部隊が出発して連日叩くことになるらしい。
行きに2日、渓谷で1日、帰りに2日、休憩1日を6部隊+負傷者の交代要員兼本陣守備兼雑用係………道理で結構人数が必要だと………じゃないっ!
ちょっと待て!
作戦完了まで何日かける気だ。
無理やり連れて来られた意味がやっとわかった。
遠いからという表向きの理由より時間かかるからということか。うーん。騎士団長意外と策士だな。まぁ、策士は嫌いじゃない。話が通じる分、脳筋より好きだ。むしろ、策士を策に陥れるのが好きだったりする。
王都に帰った後の楽しみができた。
「さてと、暇だから猪狩りでもしますか?」
剣士さんに声を掛けた。
「なんか猪の牙の痕があるんで、怖くて安心して眠れません。この間も猪料理が出たってことは居るんですよね」
取って付けたような理由を棒読み口調で足した。
昨夜も爆睡してたことを知る魔術師さんは笑いを堪えるのに必死なようで変顔してる。
『マリアンヌさんは猪狩りやったことありますか?』
「無いです。初めてでドキドキします」
やる気は満々です。山に入ってからほとんど運動できてません。移動中は筋肉痛になるくらいには運動させられたらしい、馬にね。でも、動いた気がしないから考慮しない。
要は暇なんだ。
『…猪狩りは…ダメです』
騎士団の1人が恐る恐るだが、キッパリと発言した。確か………残り部隊の責任者…だったかな。出発間際に騎士団長に紹介された人だと思う。騎士団の人たちって同じ服を着てるから分かりづらいんだよね。
『この辺りになると魔物が出没する可能性もありますので、この集落から出ないで下さい』
神経質そうな背の高いノリの悪そうなやつだ。乗せられないようにかな。神経質な責任者と名付けよう。
騎士団長に読まれてるのは悔しいけど、禁止されてるとやりたくなる。それに集落から出なくても狩りはできる。私のこういう場合の遭遇率は異常に高い。前世から引き継ぐ悪運の強さを舐めるなよ。
クマの時みたいにしっかりガッチリ遭遇するが、私に直接的な危険が迫ったことはない。経験上、数日中に猪が集落に侵入して来るだろう。
そういえば、前に勇者が『交通事故で転生?』とか言ってたけど、あれは何のことだろう。私は自分の死因をうっすら気づいているが、断じて事故ではない。
事故に逢いそうになったことならいくらでもあるが、いつもギリギリかすり傷程度まででだった。究極のトラブル回避術でもあるんじゃないかとその筋では有名になっていた。
うん。要らんことを思い出した。勇者が悪いな。間違いない。
とりあえず、猪狩りをする時までおとなしく……部屋で女子限定で夏の風物詩『百物語』でもしてようかな。それと腕立て伏せと腹筋もね。




