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今日も馬車旅だ。
暇である。
『そういえば、魔王討伐の時にクマは食べなかったの?』
あちこち旅してたハズだ。宿が無いところもあっただろう。
『さぁ~?あの時は『肉』としかわかんなかったから』
勇者が返事した。
「食料の調達とかしただろ」
『僕は魔物退治係で、ご飯の準備とか、泊まるとこの手配とか、色んな交渉とかは仲間にお任せだったから』
「つまりはお荷物だったわけだな」
『いや、だって……いきなり異世界に連れて来られて、魔王を倒せとか…右も左もわかんないのに…』
「仕方ないか……五月病だったし…あれ?魔王討伐の旅ってそこそこ続いたんじゃ…」
『だって、仲間がやってくれるし、日本食恋しいし…』
つまりはこの世界に慣れた頃には食欲に支配されていたと……安定の残念さだな。
『たださぁ。どんな肉でもただ焼いただけで、もう何の肉でも飽きたって感じに』
「仲間って誰がいたの?」
『………ええと……騎士団長と…王女様と……誰?』
『…神官様では?』
『…多分、その人』
言葉に詰まる勇者に魔術師さんが助け舟を出した。
「こっちに来て最初に食べたのは何?」
ふと気になったので質問してみた。
『肉!』
即答。
よくわかった。勇者の中では 魔王討伐パーティー<<<|越えられない壁|<<食事 なんだな。
『騎士団長って何人もいるけど、どなたなんですか?』
『今回も一緒だよ』
第3騎士団の団長か、魔王討伐に参加したから尊敬されてるんだな。大変だもんな、勇者の相手。
『そんなことよりさぁ、肉に飽きた時にふとカレーを思い出して…』
『カレーですか』
『うん。〈カレーではない何か〉じゃなくてカレー』
『異世界の料理なんですね』
『この肉もカレーに入れたら何杯でもイケるとか考え出したら眠れなくなって……夢にまで出るようになったんだ』
夢見るくらい寝てるじゃんか。REM睡眠だろ。
心の中でツッコミを入れつつ、睡眠をとることにした。
馬車の中は聞き役が他に2人もいるんだから私は休憩でいいだろう。休める時に休んで、動かなきゃいけない時に備えないとな。
『…20倍カレーに挑戦した時には…』『…友達と食べ歩きして…』『…林間学校で…』
宿に着いて起こされるまでの3時間カレーについての独演会は続いたらしい。




