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『ちなみにクロスボウのこのハンドルは?』
騎士団長はクロスボウに付いてる機構に興味があるようだ。
「ぐるぐる回すと弦が引かれるんですよ。非力だったから、引けなくて付けてもらいました」
『子供だから仕方ないだろう』
「兄が簡単にやってたので」
『いや、それは……男性ですし……』
…赤牛だしだな。それに気づいたのだいぶ後になってから。あの頃はまだ年齢差もわからないで、兄ができることは自分にもできると思い込んでいた。そもそも脳筋とじゃ比較するのが間違いだった。
『ぐるぐる回してみて』
ワクワクの勇者に影響されたのか、騎士団長の視線が熱い。
回して弦をピンと張ると色々問題があるのだが、勇者には理解できないよね。うん、ムリだと自己完結。
クロスボウを先端部を下にして地面に立て、鐙に足をかけてハンドルをゆっくりと回す。昔は全力で回してたけど、やっぱり子供の時とは力が違うな。
『マリちゃん。ぐるぐる回すっていうか、ガチャガチャ回す?』
歯車だから仕方ないじゃん。
子供の力でできるように設計してあるんだもん。その分、威力もそれなりで、しかも負荷がかかりすぎると破損するようになってる。子供=自分の安全に配慮した設計………撃って転ぶのは想定外…って作用反作用の法則を忘れてた。兄と同じようにウサギ狩りしたいしかなかった。負けん気が強かった。もう少し思慮深かったらケガをすることもなかったのに、子供って浅はかだ。
きっちり最後まで弦を引いた。構えてみる。そこそこ重い。これって今の兄用に作ったらどんだけゴッツくなるんだろ。ってか、それだと威力ありすぎになるか。
剣士さんに矢を渡されたので、セットした。どちらにしろ弦を引いた以上は撃つしかない。張ったまま放置するわけにはいかないのだから。
森の中を見ると木陰に動くものが見えた。対象を確認して矢を放った。
重量物が倒れる音が聞こえた。
地面を伝わって振動も伝わってきたが、何より普通に撃てたことに安堵した。
音に反応して騎士たちが動いた。私を守ろうとする一群と獲物を確認しに動く者。同時に周囲の警戒も怠らない。
しばらくして、クマが来た。金クマじゃなくて本物。但し、首に矢が刺さっている。ぐったりしたそれを騎士たちが運んできた。
そして、なぜか皆が沈黙して私を見ていた。
『マリちゃん。クマ倒したの?』
やっぱり勇者だ。色んな意味で勇者だ。
「うーん。そうみたい。弦を張ったままだと傷むから撃ってみたんだけど……」
ぐるぐる回せと言ったのはお前だ、勇者。それよりも、こんなに人が集まっている近くにクマが出る方が問題だと思う。
「この辺ってクマが居るんですね」
自分が一撃で倒したことは脇に置いてつとめて平静に言った。むしろ、クマの死因は忘れて欲しい。
『クマって美味しい?』
勇者だ。マジ勇者だ。
「食卓に上ったことないから知らない。でも食べられるハズだよ」
『今夜はクマ鍋?』
なぜ鍋限定なんだかわかんないけど目をキラキラさせている勇者は、周囲の呆れた視線を気付かないんだろうな。
その食欲だけで魔王を倒せるってある意味スゴいわ。




