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馬車旅飽きた。
最近の昼食はウサギだ。訓練と称して騎士団が狩り、そのままおいしく頂く。その間に私の出る幕はないので、焼き上がったのを労せず…ってかさぁ、この人数分のウサギってどうよ。
鹿とかなら一匹でよくない?
たまには雉とか鴨とか…
『マリちゃんって、捌くとこ見ても平気なんだ』
騎士の意外に手際のいい処理の様子を眺めていたら勇者がつぶやいた。
「いつもしっかり食べといて気持ち悪がったら失礼でしょ」
馬車内と違って会話が漏れるからとりあえず大人しく。考えてみたら、遠征に行く度に獲物捌いてるんじゃん。慣れてて当然だな。
『女の子ってこういうの苦手だって思ってたから』
「ウチの調理担当は私だし、鳥やウサギなら普通に捌くよ」
さすがに町育ちだから鹿以上のサイズのは捌いたことがない。ウサギなら私も狩りに行ったこともあるし。血抜きが面倒くさいから普段は干し肉かハムだけど、できないわけじゃない。たまにやんないと腕が鈍るしね。って、最近やってないから鈍ってるかも。
「明日は狩りに混ぜて下さい。足手まといになるとは思うんですけど」
私たちの後ろにそっと来ていた騎士団長に振り返りながらにっこり笑いかけた。
『狩りは危険だし、騎士団の訓練でもあるから……』
「ヒマなんですよ。帰りたくなっちゃうくらい」
上目使いでかわいらしく言うが、もちろん脅しである。
『マリちゃん帰るなら、危ないから送ってくよ』
勇者空気読まないその発言ナイスだけど、騎士団長泣くよ。
今から討伐に向かうとこだし、私を送り届けるだけのつもりでも王都に帰ったら1人で戻っては来ないだろう。
『…マリアンヌ嬢。明日ウサギ狩りをお願いできませんか?』
騎士団長も同じ危惧を抱いたらしい。苦笑しながら逆に頼んできた。
「弓とか使えなくて役に立たないかもしれませんがよろしくお願いします」
頭を下げると剣士さんが小さく『あっ』と声を出した。
『ボスにマリアンヌさん用って弓を預かってきた』
いや、力無さすぎて弓使えなかったから。子供の頃の話。剣士さんが馬車から取り出してきたのはクロスボウだった。
見た瞬間、血の気が引いた。
さすがに覚えている。抹消したい記憶なのに。
いや、大したことではない。長弓がうまく引けなくて、クロスボウならイケるかもって作って貰った。力が弱くて引くのが大変で、引くのを簡単な機械式にして…………弓を放った瞬間に反動でひっくり返った。両手でしっかり構えていたおかげで肩に損傷はなく、転んだことによる掠り傷程度だった。ただあの時、可愛い可愛いと連発しながら笑い転げた兄に心を傷つけられたんだ。
このクロスボウの開発費がいくらかかったか知らない。子供のお小遣いで済まない金額であることは間違いないだろう。あれから私はクロスボウに触らなかった。開発費の回収を考えたら持ち出してくるのもわかる。
わかるが二度と見たくなかったんだ。




