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本格的に暑くなってきて、葉物がほとんど市場に出なくなった。弟も持ち帰って来ない。
こういう時は豆と人参でスープ作ればオッケーさ。
『マリちゃん。毎日毎日同じようなメニューで飽きない?』
勇者お前は毎日毎日人んちに来て飽きないか。
「飽きない」
この同じような料理に季節感を取り入れるのが楽しいんじゃないか。実際のとこ毎日全く同じでも構わないことは構わない。だいたいにおいて、少量の肉と塩、季節に採れた野菜、それに豆などの保存に適した食材を使用し、薪とかまどの組み合わせで豊富な献立が作り出せるか?
少なくとも私にはできない。
調味料と言ったら、基本的に塩!
〈カレーではない何か〉は敢えて無視する。本来ならスパイスは庶民にはめちゃ高いんだよ。輸入品なんだよ。馬車で何日も運ばれてくる。塩だって高級品。ケチケチするのが当然。
高いと言えば、油も高い。オリーブか菜種かゴマが主な原料で、トウモロコシはそのものすら見たことない。
まあまあ安いのは脂。冬支度を始めた動物から取れる。今は夏場でまだ供給が少ないから手を出せない。残り物をランプに使うと獣臭くなるし、何より常温で固体である。
だから揚げ物は勇者が油を買ってきた時だけ。主にポテチだから冷めても大丈夫。温度調節が難しいから時々炭化しちゃうのが難点だ。
ってかさぁ。薪とかまどだよ。キャンプ場と大差ないじゃん。バーベキューとカレーなどの煮込み料理以外できるなら、教えて欲しいくらいだ。面倒だから知りたくないけど。
『暑いからさぁ、お昼に流しそうめん…』
カッコーン!
今日も勇者専用カップがまっすぐ軌跡を描いて命中した。正確には重力でやや下降気味な軌跡だ。
「水の無駄遣いすんな!」
水は井戸から汲み上げる。汲み上げは家事のうち大きな時間を占める力仕事である。最近は勇者ポンプがあるから楽だが、勇者にも仕事………魔物討伐とか…があるから毎日来るわけでは………あるか。コイツ毎日来てんじゃないかっ。
「最近、魔物はどうしてる?」
『だいぶ減ったけど、この辺でも森の中に隠れてるから厄介だよ』
仕事してたのか。てっきり毎日ぐうたらしてるのかと。
『魔王が倒れてからは爆発的に増えることは無くなったけど、東の渓谷では少し繁殖してるぽい』
「…繁殖するんだ」
『渓谷に逃げ集まっちゃったらしくって。ハーフみたいのが目撃されてるって』
絶対数が減少したから誰彼構わず有性生殖ってことか? そもそも魔物ってどうやって増えてるんだろ。一瞬ヒドラのような増え方を想像してしまった。魔物→ヒュドラ→ヒドラってつながりか。まあ、ヒドラって名前がヒュドラから来てるんだから関連付けは仕方ないけど、それを魔物全般で想像しちゃうのは我ながらどうかと思う。
『でね。そのうち東の渓谷に行くかもしれないんだけど…』
うつむき加減で全身で照れた。
「行かない!王都から出ない!」
全力で拒否する。
「変な根回ししたら許さない」
私はこの街で妹を愛でながらまったりと暮らすのが理想なんだから巻き込むな。
もう二度とどこにも旅行なんてするか。




