123
勇者が寂しそうにやって来た。
『海苔食べ切っちゃったよ』
そうだな。お前の関心事は食べ物だ。
『馬車便だから送るのに時間かかるって。電車でも走らせればいいのに』
「電車はムリだろ」
『SLとかなら何とかなりそうじゃん』
「…SLは電車じゃない。蒸気機関車だ」
『似たようなもん…』
「違う!ディーゼル機関車を電車と間違えることすら有り得ん」
『…マリちゃん。鉄?』
「違う」
『鉄道に詳しい?』
「全然。鉄道好きな友達の中で一番モノ知らずだった」
私は単に眺めて楽しむ程度の鉄道好きだった。たまたま珍しいのを見かけるとラッキーと見とれるくらいで、わざわざ行動を起こしたりしない。面倒くさいし。
『鉄道好きって、○りかもめの一番先頭に乗ったりしたの?』
「○りかもめは鉄道じゃない。タイヤで走ってる」
案内軌条式だっけ?友達が何か言ってたけど、とにかく『鉄の道』を走ってるとは思えない。
『先頭に座ったことは?』
「……ある。空いてるなら先頭だろ。軌道を眺めながら行くのが普通だ」
『キドウ?何?景色じゃなくて、キドウ?』
「景色を見てどうする?」
『はぁ?』
「あれは自動運転だが、ブレーキのタイミングとか考えながら乗るもんだろ」
『……マリちゃん?………電車○GO?』
「だから!電車と言うものはだな…」
『……マリちゃん。鉄道の話はスゴく勉強になったよ』
勇者はスゴくよれよれな感じになっていた。
「まだ1時間しかやってないが?」
『いや、もうお腹いっぱい。ところで、クモハとかサロネとかがわかって何の役に立つの?』
「何言ってんの」
呆れたように勇者を見た。
「馬車がメイン物流なんだから役に立つわけないじゃん」
『……じゃあ、なんで1時間も…』
「覚えた知識の全てが役に立つわけないでしょ。それより夕食の支度始めるから帰って」
『えっ、帰らない。夕飯食べるよ。食べさせて』
「だって、お腹いっぱいなんでしょ?」
さっきそう言ったじゃん。
『違うーっ』
勇者は思いっきり首を振った。
『お腹いっぱいなのは鉄道の話で、胃袋は空っぽ!』
「ややこしいな」
ってか、今日もウチで食べる気ってそろそろ夕食代を請求した方がいいかもな。でも、それだと容認したことになるのか?
面倒くさいな。
そうだ。勇者が料理人とか雇うのを待ってるだけじゃなくて、紹介するか…………料理人なんて知らないから従姉さんに頼もう。




