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今日はキャベツ丸ごとスープの予定。
じっくりコトコト煮込んでいる。
『マリちゃんの料理って豪快だよね』
やっぱり来ている勇者が一言。コイツの辞書に懲りるという言葉はないな。
「薪とかまどの組合せで繊細な料理ができるなら、今頃宮廷料理人になってるわ」
『煮ると焼くしかやんないじゃん』
「火力調整面倒なんだぞ。炒めるとかムリだから」
『だからレバニラとか作らないのか』
「レバーペーストあるから大丈夫」
『パンを焼かないのも?』
「専門職の仕事は尊重すべし」
『マリちゃん実は面倒くさがり?』
「実はも何も面倒くさがりだと隠してないぞ。楽をするためにはどんな手間暇でも惜しまない」
『ごめん、マリちゃん。意味わかんない』
「例えば〈カレーではない何か〉の調合を地道に続けたおかげで、自分でやらなくなってもマージン入るし」
『マリちゃんにレシピあげたんだから普通に入るでしょ?』
「作り続けたからこそ、あのレシピがウチのものであると認識され、あの味に慣れた人がリピートする」
『…?』
「バッタもん作ってるヤツらが居るんだけど、そのバッタもんは安くてもマズいというのが世間の評価。ま、実際に高い香辛料を除いて作ってるらしいの」
『それはリース商会が調べたの?』
「うん。〈カレーではない何か〉ではないバッタもん、略して〈カレーではないもん〉って呼ばれてる、らしい………」
『カレーじゃない、のか?』
「試食した……ますますカレーから遠ざかった何かだった」
『ええと…』
「謎の黄色い粉。辛くないが、おいしくもない」
『辛くもおいしくもないって最悪』
「ついでに使ってる香辛料が古いらしく香りもほとんどない」
『…それって何?』
「〈カレーではないもん〉」
『……だな』
「でしょ」
なんだか珍しく勇者と意見の一致をみた。ってか、バッタもん作るならもう少しマトモなのにしろ。
我が家を儲けさす気か…それはそれでいいが。
現在はリース商会が〈カレーではない何か〉を生産して、父の店に卸して、他のところで売ったマージンは父の店に入る。私は父から給料を貰う形だ。
庶民において給与所得の税が安いのは前世と一緒だ。税金対策は万全。
従業員だから、刃物の仕入れとかも手伝う。あ、そろそろできあがったかな。受け取りに行くか。




