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王都に戻って一週間が過ぎ、勇者が来た。
「報告会サボってんじゃない」
『終わったし』
「勇者のくせに生意気な」
『いやさ、マリちゃん。わかってる?僕、勇者なんだよ』
「だから勇者のくせにって言ってるじゃん」
『勇者ってさ、強くて英雄で憧れで…………まぁ、いいや』
あきれ果てた視線に気づいた勇者が口をつぐんだ。
「私の勇者像はウザイ、食欲ありすぎ、厄介事の種、だ」
『食欲に関して否定しないけど、ウザイとか厄介事って…』
漫画だったら、ガーンっていう効果音が入ってそうな勢いでうなだれた。
「ブランシュと離れてカスレに行かされた」
恨みがましい目で睨んだ。
『マリちゃんって、そういうとこお兄さんにそっくりだよね』
カッコーン!
本物の勇者専用カップが命中した。ちなみにカスレのリース商会にあるのが偽物。
いや、むしろコレをザ○Ⅱ、むこうをズ○ックって呼べばいいのか…海辺だからちょうどいいかも。そのうちどこかに金色のも………材料費がかさむから無しで。
「牛と一緒にすな!」
『兄妹なんだから似てて問題ないじゃん』
「牛と一緒にすんな」
静かな口調で言い直すと、勇者は押し黙った。
前から誰もが、私が冷静に言えば言うほど大人しくなるんだよね。ちょっと謎なんだけど、使える手は使わなきゃね。
「で、今日は何の用?」
『…ええとね…僕って一人暮らしじゃん』
「知ってる」
『…旅行中って宿とか野営だから良かったんだけど……帰ってきたらご飯が無いんだよ。お昼食べさして』
「何を言ってるんだ?お昼ご飯なんて無いぞ」
前にそんな会話をしたようなしないような…。
『だってマリちゃん、旅行中は食べてたじゃん』
「付き合いだ。日常に戻ったんだから食べない」
むしろ旅行中は食べ過ぎで体重管理が大変になったから。
『…マジで?』
「マジで。どうしてもって言うなら山羊のチーズくらいなら無いこともないが、金取るぞ」
市価の3倍くらいなら許容範囲だろうか。
『…山羊の…』
なんだかスゴくイヤそうな顔をした。そういえばコイツ山羊チーズって苦手だっけ?残念な味覚だな。
「黒パン一切れもつけてもいいぞ」
市価の5倍になるがな。
『他に何か無い?』
「お前に食べさせる分なんて用意してあるわけない」
『…出張費入ったんで買い物してくるから』
「ハムとベーコンと新鮮卵と人参とキャベツとひよこ豆、インゲン豆、レンズ豆が欲しいな」
『行ってきます!』
勇者は飛び出していった。毎回のことだけど、作るって言ってないんだよね。
まぁ、あれだ。二度と来るな!




