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馬車は無事に王都に着いた。
道中には特筆すべきことはない。妹に会えるという大切で大きなことの前に、旅程の様々な出来事など些末に過ぎない。記憶すべきことなどない。
弟宛てのお土産のほとんどをリース商会の倉庫に入れてもらうことにして、妹への愛を手に我が家に帰った。
『お姉ちゃんっ』
「ブランシュ」
ひしっと抱き合った。ってか、すりすりしてます。ブランシュ成分を充電中。すっかり空になってたし、ハンパにしないでしっかり充電して寿命を縮めないようにしなきゃ。
『お姉ちゃん…お姉ちゃん……ちょっと苦し…』
妹の声に慌てて抱きしめる腕を緩めた。身長差で私の胸に顔をうずめることになった妹の呼吸を妨げていたらしい。
「ごめんなさい」
『ううん。お姉ちゃんが居なくて寂しかったよ』
うぐっ
可愛い。力の限り抱きしめたい。でも、それではさっきの二の舞。
力が入った腕をそのままの位置で維持しているとプルプルと震えてしまった。
『学校が無ければ一緒に行けたのに』
ああ、もう可愛い。とにかく可愛い。超可愛い。
「勉強はちゃんとしなきゃね」
溢れ出る愛情を抑え込んで、姉らしい苦言を呈する。
本当はめちゃくちゃ甘やかしたい。でも……
『うん。わかってるよ。ルネお兄ちゃんみたいに脳筋にならないように気をつけるよ』
良くできました♪
「そのルネ兄さんからのプレゼントだよ」
リボンやアクセサリーを出すと、目がキラキラと輝いた。
『可愛い!』
一つ一つ手にとっては、可愛い可愛いと繰り返すのが、超可愛い。
『………もしかして、これ全部?』
はたと気づいたように小首を傾げた。
「全部だよ。離れていたらキチンと仕事できて、稼げるんだよ」
『……うーん。難しいね。こっちでは誰に聞いても仕事サボってたって』
まだ小さかった頃に出ていったから、妹はよくわからないようだ。でも、その通りで仕事してるより私のストーカーしてた。
離れて暮らすことによって、とりあえず普通に社会生活をおくれるようになったなら追い出したかいがあったというもの。何よりウザかったし。超ウザかったし。
「ルネ兄は離れて暮らす方がいいんだよ」
うーんって考え込んでる姿がまた可愛い。
『大きくなったら遊びに行きたいな』
「バランスよく食べて、お勉強やって立派になったらね」
『うん。約束だよ』
「……うん。約束だね」
不本意ながらカスレをもう一度訪ねなければならないらしい。クマさんまだ諦めてないかもしんないし、また会うのはスゴく嫌なんだけど、妹の願いは叶えねばならない。
呼び戻して一緒に暮らそうなんて言い出されるよりマシだけど、赤牛に二度と会わなくて済むと思ったのに…




