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クマさんは考え込んだ。
ちょっとかわいいかも。暑苦しいけどな。
『では、ルネにも仕事をさせるために半年に一回くらいカスレに…』
「来ません!」
『私と勝負して決めよう』
「断る!」
圧倒的に火力が足りないわ!
クマに素手で立ち向かうみたいなもんじゃん。腕の太さ何倍違うと思ってんじゃあ!
『逃げるのか?』
「騎士が町娘に決闘申し込む方が変だわ!」
『カスレの治安のためなら、努力は惜しまない』
「努力の方向が間違っとるわ!」
ついうっかり乱暴に怒鳴ると、クマさんが何かを思い出したように言い出した。
『そういえばこの間、盗賊団の取締りに協力してくれたそうだな』
「追いかけられて大変な目にあっただけです」
『捕まったヤツがルネよりお嬢を怖がってるんだ』
アイツら踏みにじり方が足りなかったか。
「私の後ろに兄を見てるだけでしょ」
『あっという間に3人叩き伏せたとか』
「兄が?」
『…しらを切る気か…』
「怖かったので、全然覚えてませーん」
にっこり。雑魚は記憶に入れない。
『得物は棒と短剣なのか?』
「うーん」
クマさんの追及厳しいな。
「むしろ小麦粉とか、カップとか、水桶とか」
で、勇者を弄ってる。
『…生活道具か』
「防御一択です」
か弱い町娘ですから。と笑顔を見せたが、なんでそんなに渋い顔になるんだろう。
『どんな防御だ』
「…攻撃が最大の防御ですよ」
本日最大の笑顔で、答えた。
それに対してなぜか怯んだクマさんは長い沈黙の後に口を開いた。
『……お嬢。いっそのことウチの騎士団に入らないか?』
「やです!」
『ルネより面白れえ』
「王都に可愛い妹を残してるんだから帰ります!」
『こんなに面白いなら、もっと早くから口説くんだった』
『団長っ!口説くってなんですか!妻子ある身で、俺の可愛いマリアンヌを口説こうなんてどういう了見っすか!』
『ルネ!落ち着け!勘違いだ!』
赤牛は入ってくるなり、クマさんの襟首を掴んだ。
クマさんvs赤牛の対戦開始かなぁ。
『いいや、口説くって言ってましたね!』
既に暴走モードで、こうなったら誰にも止めらんない。
もちろん、止める気もない。
『マリアンヌ!ここは危険だ!王都に帰れ』
「はぁい」
言質取ったから、兄は大人しく見送ってくれるだろう。コレが一番面倒だから、クマさんに感謝。
あとは二度とカスレに近づかなきゃいいだけ。
うーん。なんか忘れてる気がする。忘れてるってことだけわかるんだけど………いいよね。忘れたままで。
それより妹だよ。妹!
早く帰って癒されたい。




