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先日、勇者にサメの調理としてはんぺんを例に出してみたが、よく考えたら、サメでなくてもいいし、蒲鉾でもさつま揚げでもいいことに気づいた。
要はたんぱく質を変性させて固めればいいだけで、その味付けや調理法で名前が違うだけじゃん。肉で作ればハムだし……あ、魚肉ソーセージってのもあったな。
とにかく、たんぱく質を塩析したら凝固するわけで、そっちは試さなかったけど、日持ちしないんじゃお土産にはなんない。
従姉兄たちは新商品開発のつもりで私を引っ張り出したみたいだけど、私としては家族が喜んでくれたらいいだけ。主に弟とか妹とか妹とか妹とか…。
いや、弟も妹も一人ずつしかいないけど。
ハム好きな弟は蒲鉾が嫌いではないかもしれないが、どちらかと言うと噛みごたえがあるほうが好きそうだ。
噛みごたえ……えーっとホタテだっけ?の干したのしか思いつかない。うーん。アワビだ!アワビを醤油につけて運んでたら海無し県の名物になったって話があったな。………醤油?却下!
前世の記憶は前世で記憶したことしかない。当たり前だが。
興味なかったことは一切記憶してないし、間違ってインプットされてしまったのもある。そして私が持っている記憶は明らかに片寄っている。
もし来世に現世の記憶を持っていけたら、きっと妹と弟のことに違いない。
でも、前世の記憶などというミスが続くことはないだろうな。ってか、今も忘れても全く困らない。剣と魔法の世界には特に要らない知識だ。この世界の文明を底上げする気なんてこれっぽっちもない。
この場合の『コレ』って具体的に言うとドレなんだろうとか考えていたら、勇者が来た。
『………マリちゃん。山芋見つからなかった…』
精気も感じられないほど肩を落としていた。
「異世界だからな」
『せっかくサメ取ったのにぃ』
「お前の食欲のためにサメがいるわけでない」
『……一度捕ってみたかったんだもん』
だもんって20歳過ぎの男性が言っても可愛くないし。
『向こうじゃサメと格闘なんてできないし』
確かに普通の人はやんないな。
「命懸けてまでやることじゃないからな」
『命まではかけてないよ。サメだし。それに3回までは生き返られるし』
へっ?今なんか変なことを聞いたような…。
『召喚時に言われたんだけど、魔王討伐の時になんかあったら困るから復活できるんだよ』
はぁ?
「勇者って異常に丈夫との噂聞いてたけど?」
『丈夫だよ。でも、今までの勇者で討伐でやられた人がいるらしくって、復活の呪文が…』
それ、なんてチート。
しかも3回ってどこまで安全率見込んでんの?
頭悪くね?あ、他の世界からムリヤリ召喚して魔王討伐やらせようってんだから、よく考えなくてもおかしいわ。
ま、この世界に生まれちゃったんだから、そこは諦めるとしよう。
問題は…目の前で空気中にアンモニアを放出し始めているサメだ。ここリース商会の小会議室なんだけど………従姉兄たちの顔を思い浮かべ……
「……塩持って来い。揚げ油も用意しろ」
『了解!』
元気よく飛び出していく勇者の後ろ姿を見ながら、初めて運命を呪ってみた。
塩すり混ぜて揚げたらさつま揚げになるかなぁ…。ああ、わかんねー!




