閑話:俺の可愛い女神
カスレの赤牛視点です。
7人全員がへばって相手をする部下が居なくなったので鍛練場を後にした。まだ俺の体力の余裕は充分にあるが、これ以上部下が動けなくなると団長がうるさい。
俺を逆恨みしていた盗賊団を一網打尽にしたとはいえ、可愛い妹の警護を任せられるヤツはいない。コイツらは騎士のくせに初動10分ではマリアンヌより弱いんだ。
性格のキツい従姉と違って妹はとても可愛い。エリックやブランシュももちろん可愛いんだが、マリアンヌは群を抜いている。いつものちょっと醒めた表情が笑顔になる時は、マジ女神降臨って感じで、目が離せなくなる。
先日マリアンヌを害そうとして捕らえたヤツらは、なぜか非常に怯えている。
女神の舞のような動きを間近で見て、天使の微笑みを向けられて怯える理由がわからん。
だが、二度とマリアンヌに近づかないなら何の文句もない。
ただマリアンヌに一瞬でも殺意を向けたヤツらを逃すつもりもない。尋問にいつも以上に力が入ったのは仕方ないだろ。部下が制止しようとするからしごきになった。
ああ、マリアンヌが一番輝くのは闘っている時だと、本人は気づいているのかどうか。戦女神の神々しさを自分で見ることはできないから知らないんだろうな。
勇者にそれを見せないように居ない時を狙ったのは俺の都合もある。
マリアンヌの勇姿を男どもに見せる気はない。共闘するのは従姉の護衛の女性二人にお願いした。しかしだ。魔術師の方がマリアンヌにやたらベタベタするのが気に食わない。マリアンヌに触れていいのは俺だけだ。
マリアンヌに渡したロクシャクは剣に負けて折れてしまったが、マリアンヌが触れたものだから大切に保管しなきゃ。
マリアンヌの許しが出て王都に帰るその日まで……ああ、マリアンヌを起こして、マリアンヌの作った朝食を堪能して、マリアンヌと一緒に買い物して重い荷物を持ってあげて、マリアンヌと一緒に夕飯を作って…
満たされない思いにため息が出た。どこまでならマリアンヌに許されるだろうか?
許可が出るなら1日に20時間くらいマリアンヌを視界に入れていたいんだが…。いや、可能ならば1日に30時間くらい…って言うとマリアンヌは1日を超してるじゃないかとボロクソになじるんだろうけど、マリアンヌを愛でるのに1日が1日では足りない。
王都に居た時、第3騎士団への入団を勧められたが、第3だと王都以外の赴任もある。マリアンヌから離れることを認められずに断った記憶がある。
第3に居たらマリアンヌと旅行ができると知っていたら、入っておくべきだったのに。後悔先に立たずとはこのことか。
今一番の問題は勇者か。弟からの手紙でもマリアンヌに執着して実家に入り浸っているらしい。たかが勇者のクセにマリアンヌに近づこうとは生意気な。
勇者さえ居なければ、ここカスレでマリアンヌ三昧の数日を過ごすことができたのに。実際は勇者を牽制しつつ、マリアンヌを堪能することしかできていない。
下の妹は可愛い。だけど、ブランシュが居るとマリアンヌは彼女に構い過ぎて俺を無視しかねない。今が一番のチャンスだと言うのに、勇者のヤロー!
貯まりに貯まった休みを今ムリヤリ取得して、できるだけマリアンヌの傍にいる。団長の小言はうるさいが、5年も離ればなれだった最愛の妹との再会を邪魔するほどではないらしい。従弟からマリアンヌが来ると聞いてから浮かれまくって盗賊団だの人身売買組織だのをいくつか潰したのも効いているかもしれない。
今日は休みだ。マリアンヌと買い物デートだ。マリアンヌのために貯めたお金で欲しいものをいくらでも買ってあげようと思っている。
俺としては腕を組んで歩きたい。なのに、マリアンヌは照れまくって5mルールを持ち出すんだ。
そういえば、何が原因でしばらく王都外に行かなければならなくなったかわからん。マリアンヌに近づこうとした男を呼び出して2時間くらい『話し合い』したことだろうか、それともマリアンヌに市場でぶつかった相手を吊し上げたこと?はたまた、マリアンヌが女友達と出掛けようとした時に友達が来られないようにしたせい?仕事中にマリアンヌのことが心配になって3時間抜け出したのがバレたとか…うーん、どれが問題なんだろうか。
もしかしたら、マリアンヌの誕生日に贈った花束が一抱えでは少なすぎたんだろうか。いや、マリアンヌのことだから実用品じゃなかったのがいけなかったのかも。
やっぱりちょっとした調理にも使えるダガーにすべきだったのか…。彼女がいつも使っている棒に比べたらはるかにリーチが短いが、ポイントを的確に狙うことが得意なマリアンヌなら、接近戦で有効に使うことができる。
うーん。失敗したな。今日は武器屋にでも連れて行くか。と思ったのに、マリアンヌはブランシュへのお土産選びに夢中だ。
ブランシュは可愛い。そこには異論はないのだが…。
ブランシュへのお土産選びを短時間で済ませたかったので、マリアンヌが悩んでいる全商品を買うことに同意した。カスレ騎士団の副団長を拝任しているだけあって俺の収入は決して低くはない。ましてマリアンヌとの楽しい時間のためなら例えこの店の商品を全部買い占めても問題ない。
さあ、早くマリアンヌが喜ぶものを買いに行こう。




