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「先生、もうちょっと待っててくださいねー」

 風呂の外から織姫の声がする。

 本気だった。

 強引に服を脱がされ風呂に放り込まれた俺は、織姫の準備……要するに脱衣を待っていた。いや、確かに見た目は子供だが―――中身は大人なんだぞ。しかもオッサン。さすがにこれはまずいだろう? と俺は一応そう言ったんだが、何故か織姫は「私は気にしませんから」と笑顔で答えただけだった。

 そして、今に至るわけである。

「すいません、お待たせしちゃいました」

 織姫が入ってくる。

 思わずギクっと肩を震わせてしまった。

 まあどうせタンクトップに短パンとか、そういうオチなんだろう。そう思いながら振り向くと、そこには、バスタオル一枚を巻いただけの織姫がいた。いつも服の上からしか見たことがなかったし、それでも彼女のその大きな胸は、思春期の男子生徒には刺激が強すぎるだろう代物だった。それがバスタオル一枚しか包むものがない今は、もう、ただただ刺激的なだけだ。

「はい。先生、まずは頭を洗いますね? 背中向けてください」

 織姫が、かがむ。

 豊満な胸が俺の目の前で揺れる。

 っつーか、こいつ俺がオッサンだってわかってるんだよな?

「あれ? どうかしましたか?」

「ばっ……馬鹿野郎、無防備すぎんだろっ! っつーか、もう少し考えろっ!」

「あれ? 先生、照れてるんですかー? かわいいですね」

 うふふ、と笑いながら、織姫がくるっと俺の体を反転させる。

 そうじゃない、そういうことじゃない。言いたかったが、もう、声も出なかった。

 そうして俺は織姫に頭を洗ってもらった。だが洗うたびに背中に柔らかなものが当たるし、もう、風呂に浸かる前からのぼせてしまいそうだ。

「先生、髪の毛硬いですね。ちゃんとお手入れしてますか?」

「してねえよ、なんで男がそんなもんしなきゃなんねーんだよ」

「今は男の人でもお化粧する時代ですよ?」

「俺が化粧しても気味が悪いだけだろうがよ」

「あはは、それもそうですね」

 織姫はくすくす笑う。

「じゃあ、流しますねー」

 シャンプーをすすぎ、ようやく髪を洗い終わった。

「じゃあ背中を」

「体ぐらい自分で洗えるっ」

「また照れちゃってー」

 織姫はうふふと笑い、スポンジにボディーソープを含ませて泡立てはじめる。

 なんだかいかがわしい店みたいだな。まあ傍から見りゃ仲睦まじい兄妹もしくは親子の入浴シーンなんだろうけど。

 結局そのまま背中を洗ってもらい、その後、拒否するのも聞き入れられずに正面まで洗われてしまった。だが体をこするたびに織姫の柔らかそうな膨らみも揺れ、思わず手を伸ばしそうになった。が、さすがにそれはまずいと慌てて拳を握りしめる。チラっと織姫を見ると、優しいお姉さん、という言葉がぴったりの笑顔を見せていた。

 こいつ、俺がオッサンってこと忘れてんだろ絶対……

「あー、あのな! 俺はもう出るっ」

 俺は立ち上がり、耐えられず風呂を飛び出そうとした―――が、走り出そうと一歩踏み出した瞬間、石鹸で濡れた床に足を取られ、すっ転んでしまった。織姫は「危ないっ」と俺を受け止めようとしたが、間に合わなかった。

 俺はそのまま織姫の上に倒れ込み、そして……キスをしてしまった。唇まで柔らかいが、そんなこと今は考えている場合じゃない。というか不可抗力だ、これは不可抗力なのだ。俺は慌てて立ち上がろうとする。だが慌てて手をつくとそこには柔らかな膨らみが。

「せ、先生……ちょ、ちょっとこれは大胆すぎますぅっ」

 真っ赤になった織姫が恥ずかしそうに身をくねらす。

「違う、誤解すんなっ」

 と言いかけた時。

 体が燃えるように内から熱くなり始めた。それはけして興奮しているからだとか、そんなことじゃない。そう、俺の細胞が急激によくわからん変化をしようとしている。なんかそんな感覚だ。と、その熱がピークに達した頃、俺のの体は、すっかりまた元の大人に戻っていた。

「も、戻ったっ? 戻ったっ」

「せ、先生っ」

 織姫が悲鳴を上げる。

 そこで俺は気が付いた。自分が四十三歳の男の体で織姫の上にまたがっていることに。だが今はそんな状況に慌てたり恥ずかしがったりしている場合じゃない。なんたって元に戻ったんだからな。やっと、やっと、俺はもとの体に戻ったんだ。

 俺はガッツポーズをして立ち上がり、大急ぎで風呂場を飛び出した。そして自分が着ていた服を洗濯機から取り出し、さっさと着替えを済ませて脱衣所を飛び出した。

「よっしゃあああああああああああああ!」

「あ、あの先生っ」

「悪いな、もうアンタの世話になることなんざ金輪際ないだろうよ! オムライスは美味かったぜ!」

 感謝はしてるがもう二度とこの家に来ることもないだろう。

 織姫は呆然と立ち尽くす織姫の姿に背を向けて、俺は喜び勇んで家を飛び出した。




 それから三十分後―――ダボダボの服を引きずって、俺は再び織姫の部屋に戻って来た。

 なにがどうなっていやがる。こんなはずじゃなかったんだ。やっともとに戻れたと思ったのに、なんで、なんでこんなことになってるんだ!?

「ど、どうなさったんですか先生っ」

 部屋着姿の織姫が、玄関に立ち尽くす俺を腕に抱いた。

 柔らかい。女の体ってこんなにも柔らかいのか。俺は自暴自棄になり、どうにでもなれという気持ちで織姫の胸に顔を埋めてやった。

「せ、先生っ? どうしたんですか、くすぐったいですよ」

「元に戻った。元に戻っちまった……」

「ええ、それはわかっていますけど。あ、じゃあ銀河先生にお電話してみたらどうでしょうか」

「銀河……そうだ銀河! もとはと言えばアイツのせいだろころのやろう!」

 俺は握りしめたままのジーンズのポケットから携帯電話を取り出し、銀河に電話をかけた。ちなみに電話番号を知っているのはアイツに借金しているからで、友達だからとかそんなんじゃない。ちなみにアイツとは大学の同期だが、悪い思い出しかない。まあ、今はそんなことどうだっていい。とりあえず大空、アイツに文句言ってやらなきゃ腹の虫もおさまらねえ。

「大空!てめぇどういうことだ! 元に戻ったと思ったら、また子供に戻っちまったじゃねえかよっ! はっ? ば、馬鹿野郎! 不可抗力だよ、不可抗力! 俺は別にそういうつもりでキスしたわけじゃねえ! ちがっ……さ、触ってねえよ! 人を変態みたいにいうなっ! ……はっ? おいそれどういうことだよ、ふざけんな! って、おい、こら待て! おいいいいいいっ」

「あ。あの。どうしました?」

「……切りやがった」

「なんとおっしゃってたんですか?」

「女とキスしたら魔法が解けて元の姿に戻れるわ、ぐふふ。だとよ……ちなみにその効果は一時的な物で、一定時間経過したらまた元に戻っちまうんだとよ! つーかどういう仕組みだあのタコ!」

 俺は絶叫し、携帯電話を床に投げつけ頭を抱えて喚いた。

「ま、まあまあ。私なら大丈夫ですから、しばらく一緒に暮らしましょう?」

「ああああああああああ! 今度見つけたらアイツの脳みそ全部ほじくり出して便所にすててやる!」

 俺は絶叫した。

 いつになったら元に戻れるんだろう?

 アイツのことだからしばらく姿を見せないかもしれないし……考えたらぞっとした。

 そして俺は結局この先もしばらく織姫の家で世話になることになったのだが……無防備というかなんというか、こんなむちむちぷりぷりの体でよくもまあ、こんな中年男を居候させようって気になるな。まあ、見た目は子供なんだけどさ……



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