1話 第二次ゲート発生
《見てください!まるでそこにあった空間を切り取ったようにも見える、黒い部分を!!》
《この黒くなった所は何が起きたのか、それを調査するため警察や自衛隊、学者などが集まっています!》
《この黒い部分は世界中で突如として現れ、正体は未だ不明、調査チームが――》
《各国の首脳は急遽国際会議を行うという情報もあり――》
《何か動きがあったみたいで……な、何だあれ……う、うあああっ――》
三年前、世界中に突如現れた黒い空間。どうやら異世界と通じてるらしく、<ゲート>と呼ばれるようになった。そこから何度かに渡り、未確認生命体が攻撃を仕掛けてきた。
詳しい事はまだ調査中――
「大体知ってる事ばっかじゃねえか……大事なことなんだからもっと情報を一般公開するべきだよなー」
今はクラスで四人の班に分かれ、それぞれ気になる事を調べてまとめる時間。高校生にもなってなんでこんなめんどくさい事をしなきゃいけないんだ。
「柳ぃー、やっぱ情報も少ないしテーマ変えないかー?」
俺こと、柳慎一は同じ班の一人である木場拓海と一緒に三年前に起きた世界中を揺るがした大事件、<異界との接触>について調べていた。
ネーミングセンスが皆無とも言われるかもしれないが、決して俺が考えた訳じゃない。当時のお偉いさんが考えたんだ。
「こうも良い情報がないとなぁ……おーい、そっちは何か良い本あったかー?」
俺は少し離れた所で本を漁ってる残りの女子の班メンバーである島田と安達に聞く。
「んー……色々見ているけどなかなかなぁー」
「そっか……」
流石に変えるべきだろうか、いや、二日かけたんだ、ここまできて引くのは――
「二日かけて新情報が無いんだ。諦めて早いとこテーマ変えようぜ」
俺が悩んでたのに拓海が先に口にしやがった。
「そーしよー」「流石にこれ以上進展無かったらねぇ……」
そうか、俺以外は即決なのか。
「仕方ない、そうするか。で、何について調べる?」
別にそこまで執着があるわけでもないしな。
そんなこんなでいつも通り授業をして終礼をする。
今日は部活もオフだし誰かと遊ぼうかな、と考えてると拓海が近寄ってきた。
「なぁ、暇だったらカラオケでも行かね?班メンバーで行かないかってなってて女子は一回家に帰ってるところなんだが」
「良いね!先に適当な場所行って時間潰しとこうぜ」
――――――
待ち合わせ場所をあまり人が居なくて静かな近くの公園にするというメールを女子に送り、二人でのんびりする。
ここは時間がゆっくりと動いてる感じがしてとても落ち着く。
バチッ、バチチチチッ――
十五分位経った頃だろうか、公園内もしくは近い所から電気が走ってるような音が聴こえた。
「……ん?何か聴こえないか?」
木場も聴こえてるんなら幻聴とかじゃないのか。
「何の音だろ。電気っぽいけど電線が切れてるって感じでもねぇし……」
俺達は二人でとりあえず音の出所を突き止めようと探した。
音の出所は意外とすぐに見つかった。公園にある小さな噴水の正面側にあったのだ。
しかし、これが何なのか検討が付かない。熱のある所の上部の様に一部がモヤモヤっとしている。
まるで空間が歪んでるような……空間が歪んでる!?
その瞬間、モヤモヤっとしていた部分が黒く拡がりだす。
「お、おい拓海!これって<ゲート>じゃないのか!?」
黒い部分は一般的な玄関ドアより少し横に広い位の大きさにまでなった。
「かもな……早いとこ警察に連絡しなきゃ!」
「俺が電話しておく!」
ホントは警察に言うべきなのか分からないが仕方ない。なにせあの日以来ゲートが新たに出現したなんて聞いたことがなかったからだ。
「もしもし、<ゲート>らしきもんが出たんですがどうすれば「柳!下がれ!!」えっ……」
ドサッ――
戸惑いつつも言われるがまま下がり、鈍いような音がした俺のさっきいた所を見る。 そこにいたのは汗をかき深刻な表情をしている拓海と、勉強しない癖に置き勉などはせずパンパンになっている拓海のエナメルバッグの下敷きになって痙攣している狼だった。
いや、狼に見えるが違うだろう。ハリネズミの様に全身を包む硬そうな純粋な真っ黒の体毛、見ただけで噛まれたら大怪我は免れないと思ってしまう程敵意を剥き出しにした大きな牙――
狼に詳しい訳ではないが、近くに森や山がないこの地域でいきなり狼が出てくる事は滅多に無いだろう。
と考えると、さっき出現したこのゲートらしき所から出てきた異世界から来た存在、<ナイトメア>であると一番しっくりくる。
「拓海、とりあえず逃げるぞ!」
「あ、ああ!」
まずは逃げなければ、命が危ない。
「二人共ごめーん!待たせちゃった?」
その声を聞いて後ろを振り返ると私服に着替えてきた島田と安達が小走りでこっちに来ていた。
なんてタイミングだ……
「来るな!逃げろ逃げろ!!ナイトメアが出てきてる!!」
慌てて二人を急かすが状況をまだ理解出来てないのか動揺はしているが動こうとしない。
「おい、行くぞ!何かまた出てきそうだ!」
少し後ろで様子を見ていた拓海が走りながら叫ぶ。
ゲートからはさっきの奴が二、三匹顔を出してきていた。
俺は拓海より少し出遅れつつ走る。
「どうする!」
「俺は島田、拓海は安達を連れて右に行くぞ!」
何故右にしたかというと、右はどちらかと言うと閑静な住宅街でそこそこ複雑な通りになっている。
対して左は元々行こうとしていたカラオケやお店が立ち並ぶ通りに出てしまう。
外に人が沢山いる左に行けば他の人を犠牲にして逃げ切る事も容易に出来るだろうが、一体どれだけ悲惨な事が起きてしまうのかと思うとやはり右に行って何とか撒く方が良いと思ったからだ。
「走るぞっ!」
予定通り俺達はそれぞれ島田と安達の手を取り公園を出て右に出る。
「はぁっ、ねえ、はあっ……何が起きてる、の?」
島田が聞いてくる。
俺が後ろを見ると三体の化け物は公園を出たところだった。
「あいつら速いぞ!後で話すから全力で走れ!」
俺達はジグザグに角を曲がり逃げ切ろうとするがなかなかしつこく追ってくる。
あれ?
二匹に減ってる。一匹はなんとか撒けたのか。少し希望が見えてきた――
「柳、前来るぞ!!」
まじかよ。撒いたんじゃなくて先回りされたってことか。
「塀を登るしかないよ!」
安達がそう叫び、塀を登ろうとする。
「安達と島田は俺達が支えるから先に登れ!」
本来なら女子を下から支えるなんてラッキーシチュエーションに興奮するが、今はとてもそんなこと考えられない。
いや、ちょっとは意識しちゃうんだが。
「早く二人も登って!」
登りきった女子二人が慌てて手を伸ばしてくる。
「柳、先に登れ!女子が一人だと支えきれなかったら大変だ!!」
「悪い、行くぞ!」
軽く助走して安達にしっかり身体を押さえて貰ってる島田の手を取り塀に登る。
「拓海も早く「危ない!」
安達が叫ぶ。
見ると拓海は完全に囲まれていた。
やばい、このままじゃ拓海が――
「目と耳を塞げ!!」
誰かが叫ぶ声が聞こえる。
俺達は咄嗟に指示に従う。
その直後、バンバンバンッと連続で乾いた音がする。
ペチャっと目元に何かが付いたので右手で拭う。
痛っ!
今日帰る準備してるとき人差し指を紙で切っちゃったのを忘れてた。
しかも拭ったら目に若干入っちゃった感じがするし……
とりあえず何が付いたのか見ようと思い目を開く。
「……血?そういえば、拓海は――」
拓海は小さく丸くなってかがんでおり、その周りにいた三体の化け物は血を出して倒れていた。
一体何が……?
「君達、大丈夫か!!」
ヘリコプターから兵士と思われる人が出てくる。
兵士の人に支えられてヘリコプターに乗ったところで俺は意識を失った。
もし遊ぼうと思わなければ、あの公園で待ち合わせしていなければ、俺達はもっと違う人生を歩んでいたのだろうか。それとも運命だったのか。
それを確かめる術などないのだが――