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存在しない4.5階で止まったエレベーター

作者: Wataru
掲載日:2026/02/10

仕事帰りの夜だった。


 マンションのエレベーターに乗り込み、五階のボタンを押す。


 古い建物で、エレベーターの動きもどこか鈍い。


 扉が閉まり、ゆっくりと上昇を始める。


 二階。


 三階。


 四階。


 次で降りる――そう思った瞬間だった。


 ガクン、と揺れてエレベーターが止まる。


 表示を見る。


 4.5F


「……は?」


 見間違いかと思い、目をこする。


 だが表示は確かに、


 4.5


 存在しないはずの階数。


 そのまま、静かに扉が開いた。


 外は暗い廊下。


 電気はついているのに、どこか色がくすんで見える。


 誰もいない。


 気味が悪くなり、閉まるボタンを押そうとした、そのとき。


 視界の端に、見覚えのあるドアが入った。


 黒いドア。


 郵便受けの傷。


 貼りっぱなしの宅配の不在票。


 ――自分の部屋のドアだった。


「……なんで」


 ここは五階じゃない。


 なのに、間違いなく自分の部屋。


 ドアノブに手をかけようとする、自分の後ろ姿が見えた。


 ――廊下の向こう側に。


 エレベーターの中にいる自分と、目が合う。


 その瞬間。


 扉が閉まり始めた。


 慌てて閉ボタンを連打する。


 何かが入り込む直前で、ドアが閉まる。


 心臓がうるさい。


 エレベーターは再び動き出し、


 次に止まったのは、五階だった。


 いつもの廊下。


 見慣れた自分の部屋。


 震える手で鍵を開け、部屋に入る。


 ドアを閉め、鍵をかける。


 チェーンもかける。


 ようやく息を吐いた、そのとき。


 外から、エレベーターの止まる音が聞こえた。


 そして。


 廊下を歩く足音。


 自分の部屋の前で止まる。


 ドアノブが、ゆっくり回った。


 ――内側から。

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