存在しない4.5階で止まったエレベーター
仕事帰りの夜だった。
マンションのエレベーターに乗り込み、五階のボタンを押す。
古い建物で、エレベーターの動きもどこか鈍い。
扉が閉まり、ゆっくりと上昇を始める。
二階。
三階。
四階。
次で降りる――そう思った瞬間だった。
ガクン、と揺れてエレベーターが止まる。
表示を見る。
4.5F
「……は?」
見間違いかと思い、目をこする。
だが表示は確かに、
4.5
存在しないはずの階数。
そのまま、静かに扉が開いた。
外は暗い廊下。
電気はついているのに、どこか色がくすんで見える。
誰もいない。
気味が悪くなり、閉まるボタンを押そうとした、そのとき。
視界の端に、見覚えのあるドアが入った。
黒いドア。
郵便受けの傷。
貼りっぱなしの宅配の不在票。
――自分の部屋のドアだった。
「……なんで」
ここは五階じゃない。
なのに、間違いなく自分の部屋。
ドアノブに手をかけようとする、自分の後ろ姿が見えた。
――廊下の向こう側に。
エレベーターの中にいる自分と、目が合う。
その瞬間。
扉が閉まり始めた。
慌てて閉ボタンを連打する。
何かが入り込む直前で、ドアが閉まる。
心臓がうるさい。
エレベーターは再び動き出し、
次に止まったのは、五階だった。
いつもの廊下。
見慣れた自分の部屋。
震える手で鍵を開け、部屋に入る。
ドアを閉め、鍵をかける。
チェーンもかける。
ようやく息を吐いた、そのとき。
外から、エレベーターの止まる音が聞こえた。
そして。
廊下を歩く足音。
自分の部屋の前で止まる。
ドアノブが、ゆっくり回った。
――内側から。




