第9話:伝説の『終焉の黒竜』が王都に襲来し、騎士団が絶望する中、私だけが気付きました。「……あの竜、乾燥肌(ドライスキン)で背中が痒いだけじゃない?」
王都に警報が鳴り響いた。
空が急に暗くなる。
雲を裂いて現れたのは、城よりも巨大な漆黒の翼。
「ご、五百年ぶりに目覚めた……伝説の『終焉の黒竜』だ!!」
「終わりだ……国が焼かれるぞ!!」
騎士団長が絶望の声を上げ、市民が逃げ惑う。
クラウス殿下も、いつになく真剣な表情(※ただし肌はツヤツヤ)で剣を抜いた。
「エリザ、下がっていろ。……俺の細胞が全滅しようとも、君だけは守る」
シリアスだ。完全に映画のクライマックスだ。
黒竜は「グオオオオオッ!!」と咆哮し、王都の背後にある岩山に、激しく背中を打ち付けている。
ドォン! ドォン!
岩が砕け、土煙が舞う。
誰もが「攻撃の予備動作だ!」と震え上がった。
しかし。
私の「美容眼」は、別の真実を捉えていた。
(……待って。あの動き、攻撃じゃない)
私は殿下のマントを引っ張った。
「殿下、私をあの竜の背中まで運んでください」
「なっ!? 正気か!? 食われるぞ!」
「いいから! 早くしないと、岩山が崩れて被害が出ます!」
私の剣幕に押され、殿下は私を抱えて空を駆けた(※殿下クラスは身体強化で空も飛べる設定)。
竜の背中に近づく。
近くで見ると、一目瞭然だった。
黒く輝くはずの鱗は白く粉を吹き、ひび割れ、所々めくれ上がっている。
岩山に打ち付けていたのは、破壊衝動ではない。
「……やっぱり。**『老人性乾皮症』**だわ」
「は?」
「見てください、あの粉吹き! 脱皮不全を起こして、古い角質がこびりついているのよ!
痒くて痒くてたまらないのね……! 可哀想に!」
私は叫んだ。
「おじいちゃん(竜)! 今、楽にしてあげるからね!」
私はアイテムボックスから、業務用の特大スライム(※第3話の残り)を取り出した。
「広域・保湿魔法!!」
バシャアアアアッ!!
私の魔力で増幅された高純度ローションが、竜の背中一面に降り注ぐ。
「グルルッ!?」
「逃げないで! 今から**『全身ピーリング』**をするわよ!
殿下! あのめくれかけた鱗(角質)を、剣の風圧で剥がしてください!」
「わ、わかった! 『真空斬り(エクスフォリエーション)』!!」
殿下の剣技と、私の保湿魔法が炸裂する。
バリバリバリッ!
古く硬い角質が剥がれ落ち、下から濡れたような美しい漆黒の鱗が現れる。
乾燥による痒みが引いていくのを感じたのか、竜の動きが止まった。
「キュ……キュゥゥゥン……(気持ちええぇぇ……)」
竜はうっとりと目を細め、空中で腹を見せて「ここも頼む」と甘え始めた。
「よしよし、脇の下も乾燥してるわね。リンパも詰まってるわ」
私は巨大な竜を、まるで野良猫のように手懐けてしまった。
地上で見上げていた騎士団と国民は、ポカーンとしている。
「……竜が、喉を鳴らしている?」
「聖女様が……竜を撫で回している……?」
施術完了。
ツヤツヤのテッカテカに生まれ変わった黒竜は、私に頬ずりをしてきた。
どうやら私は「主(飼い主)」として認定されたらしい。
「よしよし、いい子ね。王都を襲っちゃダメよ」
私が竜の鼻先を撫でていると――。
ズサッ!!
突然、私の体が高い位置へ引き上げられた。
クラウス殿下だ。
殿下は私を「お姫様抱っこ」して、竜から距離を取った。
そして、あろうことか伝説の古竜に向かって、殺気に満ちた眼光を向けた。
「……おい、トカゲ」
「殿下?」
「調子に乗るなよ。
彼女の『ゴッドハンド』を独占していいのは、この国の次期国王である俺だけだ」
殿下は本気で嫉妬していた。相手はドラゴンなのに。
「彼女にすり寄るな! その鱗を引き剥がして財布にするぞ!!」
「キュゥッ!?(理不尽!?)」
黒竜が怯えて縮こまる。
危機は去った。
しかし、翌日の新聞にはこう書かれた。
『美の聖女、伝説の古竜をも陥落させる』
『王太子殿下、竜相手に大人気ない嫉妬を炸裂』
こうして、私のサロンには「最強の番犬」が常駐することになり、セキュリティ(とインパクト)が盤石になったのだった。




