第8話:隣国の「ガリガリ至上主義」王女が喧嘩を売ってきましたが、「それは美しさではなく『栄養失調』です」と論破したら、殿下が「彼女の上腕二頭筋こそ至高」とマニアックな擁護を始めました
私のサロン『ロイヤル・グロウ』が大盛況を見せる中、王城で隣国の使節団を招いた晩餐会が開かれた。
主賓は、隣国帝国の第一王女・シルヴィア。
「氷の美貌」と噂される彼女が現れた瞬間、会場の空気が凍りついた。
「……ごきげんよう、皆様」
美しい。確かに顔立ちは美しい。
だが、それ以上に**「細すぎた」**。
ウエストはコルセットで極限まで締め上げられ、折れそうなほど細い。
頬はこけ、腕は枯れ木のよう。
まるで歩く骨格標本だ。
しかし、この世界の美の基準では、これが「儚げで高貴な美」とされているのだ。
シルヴィア王女は、私の前で足を止めた。
健康的で(出るところが出ている)私の体を見て、鼻で笑う。
「あら……貴女が噂の『美の聖女』?
ずいぶんと……**『ふくよか』**でいらっしゃいますのね。
田舎では、そのようにお肉がついているのが流行りなのかしら? 豚のように」
会場の貴族たちが息を呑む。
完全なる侮辱。
シルヴィア王女は扇子で口元を隠し、勝ち誇ったように続ける。
「美とは『忍耐』ですわ。
私はこのウエストを維持するために、ここ数年、水と葉野菜しか口にしていませんの。
貴女のような、欲望に負けて食べている方が『美』を語るなんて、笑止千万ですわ」
彼女の取り巻きたちが「さすがシルヴィア様」「ストイックですわ」と称賛する。
私は――怒るどころか、**「憐れみ」**の目で彼女を見てしまった。
(ああ……典型的な『拒食信仰』ね。しかも……)
私は一歩、彼女に近づいた。
そして、ニッコリと微笑んで囁いた。
「シルヴィア殿下。……『腐った果物』のような甘酸っぱい臭いがしましてよ?」
「は……?」
「ケトン臭ですわ。
極端な糖質制限と飢餓状態により、体がエネルギー不足を起こして、自分の筋肉や脂肪を無理やり分解している証拠です。
殿下、貴女の体は今、生命維持のために**『自分自身を食べている』**状態ですのよ」
「なっ……!?」
シルヴィア王女が顔を真っ赤にして後ずさる。
私は畳み掛ける。
ここからは、サロンオーナーとしての説教タイムだ。
「その青白い肌は、透明感ではなく**『貧血』です。
そのパサついた髪は、『タンパク質不足』です。
そして、その極限まで締めたコルセット……内臓が圧迫され、血流が死んでいます。
貴女が誇っているのは『美』ではありません。
ただの『緩やかな自殺(栄養失調)』**です!!」
「き、貴様ぁ……! 私の努力を愚弄するか!!」
図星を突かれたシルヴィア王女が激昂し、私を捕らえようと兵を呼ぼうとした、その時。
「そこまでだ」
重厚な、しかしどこか楽しげな声が響いた。
クラウス殿下だ。
彼は私の腰に手を回し、シルヴィア王女を冷ややかに見下ろした。
「クラウス殿下……! 貴方もそう思うでしょう?
この女の体は醜い! 私のような『華奢な美』こそが……」
「は? 何を言っている?」
クラウス殿下は、心底不思議そうに首を傾げた。
そして、私の二の腕(程よい柔らかさ)を、愛おしそうにムニムニと揉み始めた。
「見ろ、シルヴィア。
このエリザの二の腕の弾力を。
これは脂肪ではない。適度な筋肉の上に、女性ホルモンによって蓄えられた**『至高のクッション』**だ!」
「は、はあ……?」
殿下は止まらない。
今度は私の背中をさする。
「彼女の背中には『天使の羽(肩甲骨)』がある!
これは正しい姿勢と、インナーマッスルの賜物だ!
ガリガリの背中では、抱きしめた時に俺の手が痛いだろう?
だが彼女は違う! **『高反発マットレス』**のような包容力で、俺を受け止めてくれるのだ!!」
(……殿下? 褒めてるのよね? マットレス扱いだけど)
殿下はシルヴィア王女に言い放った。
「俺の細胞(37兆個)は、飢餓状態の女など求めていない!
俺が求めているのは、共に未来を歩める**『生存能力』**だ!!
悪いが、君のその細い腰では、俺の『愛(重力)』を支えきれずに折れてしまうだろう」
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
シルヴィア王女は、あまりの屈辱(と図星)に泣き出し、会場を走り去っていった。
会場からは割れんばかりの拍手が巻き起こる。
「さすがエリザ様!」「やっぱり健康が一番よね!」
「今日から私もお肉を食べますわ!」
私は殿下に呆れつつも、小声で礼を言った。
「……助かりました、殿下」
「礼には及ばん。……で、帰ったらその『高反発』な身体で、俺を朝まで癒やしてくれるんだろう?」
殿下の目が肉食獣(健康優良児)のように光っているのを見て、私は「今日は早く寝よう」と固く誓うのだった。




