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第5話:騎士団に包囲されたと思ったら、覚醒した王太子殿下が『細胞レベルの民主主義』を提唱して、私が国の『女王(全会一致)』に任命されました

「包囲完了! 魔女め、観念して出てこい!」

「殿下を返せ! 貴様の命はないと思え!!」

爽やかな朝の静寂は、鉄靴の音と怒号によって粉砕された。

別荘の外は、銀色の鎧を纏った近衛騎士団によって完全に包囲されていた。

「ひぃぃぃ! 誤解です! 私はただ、殿下の凝りをほぐしていただけで……!」

私はパジャマ姿のまま、玄関ホールでオロオロしていた。

これ、完全に「王族誘拐」か「洗脳」の罪で、問答無用の即斬首コースでは?

ドォォォン!!

昨夜に続き、またしても我が家の玄関ドアが物理的に吹き飛んだ。

雪崩れ込んでくる数十名の精鋭騎士たち。数多の剣先が、私一点に向けられる。

「見つけたぞ、悪女め……!」

騎士団長が殺気を漲らせ、剣を振り上げたその時だった。

「――やめないか、君たち」

その場を支配したのは、あまりにも**「爽やか」で、「通る」**美声だった。

寝室の扉が開き、クラウス殿下が姿を現す。

その瞬間、騎士団全員が「っ!?」と息を呑み、私も目を疑った。

そこにいたのは、いつもの陰鬱な「氷の処刑人」ではない。

朝日に照らされ、金色の髪はサラサラと揺れ、肌は剥きたてのゆで卵のようにツルツル。

淀んでいた瞳は宝石のように輝き、口元にはアイドル顔負けの**「極上の極・スマイル」**を浮かべている。

背後には、幻覚のキラキラエフェクト(薔薇の花びら付き)が見えるようだ。

「で、殿下……? なのですか?」

騎士団長が震える声で問う。

「ああ、おはよう! ガルシア団長。今日の太陽はなんて眩しいんだ! 世界が輝いて見えるよ!」

「は、はあ……? あの、お顔の色艶が異様に良いようですが……まさか、その女に何か盛られたのでは!? 魅了の薬か、それとも禁断の魔薬か……!」

騎士たちが私を睨む。

殿下は、スタスタと私の前まで歩いてくると、私の肩をガシッと抱き寄せた。

そして、騎士団全員に聞こえるような大声で宣言した。

「盛られた? ああ、盛られたとも!」

「『愛』と『乳酸菌』をな!!」

シン……と静まり返る玄関ホール。

「りゅ、りゅうさん……?」団長が呆然と呟く。

「殿下! 正気ですか!? その女は追放された悪役令嬢ですよ!?」

「目を覚ましてください! 一時の迷いです! 脳が混乱しておられるのです!」

騎士たちが口々に叫ぶ。

だが、クラウス殿下はフッと鼻で笑い、バシッとマントを翻してポーズを決めた。

「混乱? 違うな。今の私は、かつてないほど澄み渡っている」

殿下は自身の胸に手を当て、真顔で、しかし熱っぽく語り始めた。

「勘違いするな。俺は今、**『脳(理性)』**で恋などしていない!」

「は?」

「俺の脳はまだ、彼女を『ただのエステティシャン』だと分析しているかもしれない。だが……!」

殿下は、私を抱き寄せる手に力を込め、カッと目を見開いた。

「俺の体内の『37兆個の細胞』と、『100兆個の腸内細菌』が!!」

「全会一致(満場一致)で、彼女を俺の『女王』に選出したのだ!!」

その場にいた全員の思考が停止した。

37兆? 100兆? 何の話だ?

殿下は止まらない。圧倒的な熱量で畳み掛ける。

「聞こえないか、この歓喜のアンセムが!

私のミトコンドリアが! ビフィズス菌が! 彼女の『美の波動』を浴びて狂喜乱舞している!

もはや、俺個人の意志など無意味!」

殿下は私を見下ろし、うっとりとした表情で、しかし断固として叫んだ。

「逆らうな!! これは『細胞レベルの民主主義デモクラシー』だ!!」

「従え!!」

ドォォォォォォン……(効果音)

圧倒的な説得力(物理的圧力)が、騎士団を飲み込んだ。

「さ、細胞レベルの……デモクラシー……?」

「よくわからんが……殿下の細胞が全員賛成しているなら……」

「我々が反対できるはずがない……!」

カシャン、カシャン。

騎士たちが次々と剣を収め、私に向かって敬礼を始める。

涙を流している者さえいた。

「「「女王陛下(予定)、疑って申し訳ありませんでした!!」」」

(違うー!! 誤解がとんでもない方向に爆走してるー!!)

(あと殿下、私の腸活講座をそんな風に使わないで! 民主主義の使い方間違ってるから!!)

私の心のツッコミは、殿下の爽やかな高笑いにかき消された。

「はっはっは! わかればいい!

さあエリザ、王都へ帰ろう!

この素晴らしい『細胞民主主義』を、父上や国民にも広めなくてはな!

君の毛穴一つひとつは、今日からこの国の重要文化財だ!!」

こうして。

「呪われた悪役令嬢」だった私は、一夜にして「137兆の票を獲得した伝説の美肌女王」として、王都へ凱旋することになったのだった。

(……副作用、強すぎでしょ……)

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