第3話:美肌のために「生きたスライム」で全身パックしていたら、討伐に来た王太子殿下に「新種の魔物」と勘違いされ、切り捨てられそうになりました(※すっぴんを見られました)
「お、お嬢様……本当にこれを召し上がるのですか?」
侍女のアンナが、プルプルと震える青い半透明の塊を皿に乗せて持ってきた。
森で捕獲したての、下級モンスター・ブルースライムだ。
「ええ、もちろんよ。アンナ、騙されたと思って見ていなさい」
私は鍋にお湯を沸かし、生姜と鶏ガラ、そして少量の塩を入れる。
そこに、丁寧に下処理(※魔力洗浄)したスライムを投入!
ジュワァ……ッ。
熱湯に入れた瞬間、スライムの体が溶け出し、鍋全体がとろみのある極上のスープへと変化していく。
魔物特有の生臭さは、私の「洗浄魔法」で完全に消去済みだ。
「いただきまーす!」
一口すする。
――衝撃が走った。
(……っ! 何これ!?)
口の中でトゥルンと踊る食感。
喉を通った瞬間に感じる、濃厚なゼラチン質の存在感。
これはフカヒレ? いや、燕の巣?
いいえ、これは**『超・低分子コラーゲン』**の塊だわ!
「おいしーい!! 肌の真皮層が喜んでるのがわかるわ!」
「ま、まあ……お嬢様がそこまで仰るなら……」
一杯飲み干した頃には、私の荒れた唇が、リップクリームを塗ったかのように潤っていた。
即効性が高すぎる。さすがファンタジー食材。
だが、私はそこでふと、残った「生のスライム」を見て閃いてしまった。
(待って。食べてこれだけ効くなら……**『直』**にいけばどうなるの?)
スライムの主成分は水分と粘液。つまり、天然の高保湿ジェルだ。
しかも生きているから、常に新鮮な水分を保持している。
私の美容脳が、危険な計算を弾き出した。
『生きたスライム』×『全身』=『究極の吸引保湿パック』
「アンナ、お風呂の用意を。今日は長くなるわよ」
***
浴室。湯気が立ち込める中、私は一糸まとわぬ姿になっていた。
目の前には、洗面器一杯のブルースライムたち。
「さあ、私の古い角質を食べ尽くして、その潤いを私に寄越しなさい……!」
私はスライムを両手にすくい、自分の顔、首、デコルテ、そして太ももへと塗りたくった。
ひやりとした冷たさの後、ぬちゃあ……と奇妙な感覚が肌を覆う。
スライムたちは私の体温を感じ、喜び勇んで肌に吸い付いてくる。
毛穴の奥の汚れを吸い出し、代わりに極上の潤いを押し込んでくる感覚。
(くっ……! 結構な吸引力……! でも、これがいいのよ!)
鏡に映る私は、全身青い粘液にまみれたドロドロの怪物。
まさに狂気。だが、美とは狂気の上に成り立つものだ。
「ふふ、ふふふ……これよ、この張り付く感じ……! 明日の朝には卵肌間違いなしだわ……!」
私が恍惚の表情で、スライムまみれになっていた、その時だった。
ドォォォォォン!!
突然、浴室の壁が爆音と共に吹き飛んだ。
粉塵が舞い、冷たい夜風が吹き込む。
「なっ……!?」
「見つけたぞ、邪悪な魔物め!!」
粉塵の中から現れたのは、抜き身の長剣を構えた騎士。
月光に照らされた銀髪、鋭い眼光、そして無駄のない筋肉質な体躯。
この国の第二王子にして、「氷の処刑人」と恐れられるクラウス殿下だった。
なぜここに!?
クラウス殿下の目は、青い粘液に全身を覆われ、うめき声を上げている(ように見える)私に釘付けになった。
「貴様……! 哀れな女性を丸呑みにして消化しようとしているのか!? 今楽にしてやる、滅せよ!!」
「ちょ、ちが……!」
殿下が剣を振り上げた。本気だ。殺気で肌がピリつく。
このままでは「スライムと一体化した変態」として歴史から消去されてしまう!
「待ちなさい! 今、美容パック中よぉぉぉ!!」
私はとっさに、最大出力の生活魔法を発動した。
「高圧洗浄!!」
バシャアアアアアアッ!!
私の掌から放たれた激流が、全身のスライムを一瞬で吹き飛ばし、ついでにクラウス殿下の顔面を直撃した。
「ぐわっ!?」
殿下がたじろぐ。
水しぶきと湯気が晴れていく。
そこに残ったのは、スライムがいなくなり、生まれたままの姿となった私。
そして。
「……あ?」
クラウス殿下が、目を見開いて固まった。
スライムパック直後の私の肌。
それは、月明かりを反射して**「発光」していた。
かつて「汚肌」と罵られたくすみは消え失せ、水滴すら滑り落ちるほどの、圧倒的な『陶器肌』**。
太っていた体も、先日のデトックスでむくみが取れ、柔らかな曲線を描いている。
(ふっ……見た!? これが私の、努力の結晶よ!)
羞恥心よりも先に、美容の成果を見せつけられた達成感が勝ってしまった。
私はタオルで隠すのも忘れ、ツルツルの二の腕を見せつけるように仁王立ちした。
「クラウス殿下。レディの入浴中に壁を破壊して押し入るとは……王族としていかがなものでしょうか?」
「あ……いや……その……」
「氷の処刑人」と呼ばれた男の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
彼の視線は、私の顔(肌のキメ)と、鎖骨のラインを行ったり来たりして、泳ぎまくっていた。
(……あら? もしかしてこの王子、チョロい?)
これが、私たちが「国一番のバカップル」と呼ばれるきっかけとなる、最悪で最高の出会いだった。




