第2話:魔法の聖水と、黒いヘドロの排出(デトックス)
王都から馬車に揺られること三日。
私が追放された先は、北の辺境にある古びた別荘だった。
「お嬢様……本当にこのような場所で……」
唯一ついてきてくれた侍女のアンナが、埃っぽい屋敷を見て涙ぐむ。
でも、私にとっては好都合だ。
誰の目も気にせず、己の肉体改造に没頭できる最高の「隔離病棟」なのだから。
「アンナ、泣かないで。それより、すぐに『お湯』を沸かしてちょうだい。大量によ」
「お、お湯ですか? お茶を淹れるのですか?」
「いいえ、**『白湯』**を飲むのよ」
私は早速、キッチンへ向かった。
この世界の水は、魔力が混じっていて少し硬い。
私はコップ一杯の水に向かって、右手をかざした。
「……構成分析」
前世の知識と魔力がリンクする。
水分子の構造が見える。クラスターが大きい。これでは細胞への浸透が悪い。
「不純物除去。水分子細分化。――『ナノ・ウォーター』生成」
指先から淡い光が放たれ、水が柔らかく変化した。
前世では一台百万円の浄水器で作っていた高機能水が、MP(魔力)消費だけで作れるなんて!
ファンタジー世界、最高じゃない。
沸かした『ナノ・白湯』を、ふぅふぅと冷ましながら、ゆっくりと飲む。
五臓六腑に染み渡るとは、まさにこのこと。
冷え切って固まっていた内臓が、じんわりと温まっていくのがわかる。
「さて……ここからが本番よ」
私は寝室にこもり、ベッドに横たわった。
お腹に手を当てる。硬い。まるで岩のようだ。
長年の暴飲暴食とストレスで溜まりに溜まった老廃物。
これが肌荒れの元凶であり、私の精神を蝕む毒だ。
通常の便秘薬では、腸壁を傷つける恐れがある。
今の私には、もっと繊細で、かつ強力なアプローチが必要だ。
私は深呼吸をして、魔力を腹部に集中させた。
「腸管運動促進……! 絨毛活性化……!」
地味だ。絵面は最高に地味だ。
火の玉も出なければ、雷も落ちない。
ただ、私の腸だけが、魔力によって強制的に、しかしリズミカルに蠕動運動を再開する。
ギュルルルル……ゴロゴロ……
腹の底から、聞いたこともないような地鳴りが響いた。
こびりついた汚れが、魔法の波動で剥がれ落ちていくイメージ。
「うっ……き、きた……!」
激しい便意。いや、これはそんな生易しいものではない。
「排出」の合図だ。
私はトイレへと駆け込んだ。
***
(※読者の皆様のお食事中を考慮し、詳細は伏せますが、それはもう**「黒い悪意」**のような塊でした)
***
「はぁ……はぁ……」
トイレから出た私は、膝から崩れ落ちそうなほどの脱力感と、それを上回る**「圧倒的な爽快感」**に包まれていた。
鏡を見る。
劇的な変化はまだない。
けれど、突き出ていた下腹部が、明らかに凹んでいる。
そして何より、ドス黒く淀んでいた顔色に、ほんのりと赤みが差していた。
「お、お嬢様!? 大丈夫ですか、凄い音がしましたが……!」
アンナが慌てて駆け寄ってくる。
そして、私を見て目を丸くした。
「あれ……? お嬢様、なんだか……目が大きく見えます」
「ええ、むくみが取れたのよ。溜まっていた毒素を出したから」
私は拳を握りしめた。
第一段階クリア。腸内環境のリセット完了。
吸収率が上がった今なら、栄養も魔法効果も、これまでの倍は効くはずだ。
「アンナ、明日の朝食はパンとベーコン禁止よ。私の指示通り、森で**『あるスライム』**を捕まえてきてちょうだい」
「ス、スライムですか!?」
「ええ。最高の**『コラーゲン・スープ』**を作るわよ」
私の美への執念は、モンスターすらも食材に変える。
汚肌令嬢の逆襲は、まだ始まったばかりだ。




